累計650万部突破の「八雲」シリーズ、いよいよラストステージへ! 神永学インタビュー

インタビュー

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心霊探偵八雲10 魂の道標

『心霊探偵八雲10 魂の道標』

著者
神永 学 [著]/加藤 アカツキ [イラスト]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784041013502
発売日
2017/03/31
価格
1,296円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

神永学『心霊探偵八雲10 魂の道標』〈刊行記念インタビュー〉死者の魂が見えなくなってしまった八雲。人気シリーズ5年ぶりの新刊!

死者の魂を見ることができる大学生・斉藤八雲の活躍を描いた大人気スピリチュアル・ミステリー「心霊探偵八雲」。その待望のシリーズ最新刊が発売されます。前作の事件で左眼に傷を負い、霊を見る力を失ってしまった八雲。心を閉ざそうとする彼を、晴香は救えるのか。そして都内マンションで頻発する心霊現象の陰に隠された悲しい真実とは? 物語も佳境に入り、いよいよヒートアップする「八雲」の世界について、著者・神永学さんにうかがいました。

ブランクを感じずに
作品世界に入りこめた

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――『心霊探偵八雲 10 魂の道標』は、外伝である「ANOTHER FILES」を除くと、実に五年ぶりのシリーズ最新刊となります。物語がクライマックスに差しかかっているだけに、続きを望む声も大きかったのでは?

神永 大きかったですね。併行してたくさんのシリーズを書かせて頂いているんですが、「八雲」は僕のデビュー作にして代表作。「他のシリーズもいいけど『八雲』を早く!」という声をよく耳にしました。ただ熱烈なファンになるほど、まだ完結して欲しくないという気持ちも働くみたいで、あまり声を大にすることなく、静かに熱く待っていてくれたように感じます。

――神永さんご自身にとっても特別な作品だと思いますが、執筆に際してプレッシャーは感じませんでしたか?

神永 それは思いの外ありませんでした。さあいよいよ着手するぞ、というところまで意識を持っていくのには多少時間がかかりましたが、いざ書き出してみるとほとんどブランクを感じることなく、作品世界に入りこむことができました。この五年の間には、自分の中で変化した部分もあります。感覚がずれてしまっていないか、不安もあったんですよ。でも原稿の冒頭を読んだ担当編集者やスタッフが「これこそ『八雲』ですね」と言ってくれた。いつでも違和感なく作品に戻れるのは、デビュー以来書き継いできた強みかなと思います。

――「八雲」が体に染みついているんですね。では執筆もスムーズに?

神永 実を言うと、今回はかなりぎりぎりのスケジュールだったんです。一月は他の仕事をシャットアウトして新作に没頭していたんですが、もしインフルエンザにでも罹ったら発売日に本が出ない、という危険な状況(笑)。それでも頭のどこかには「八雲」だったら間に合うんじゃないか、という安心感もあったんです。実際、キャラクターがどんどん物語を進行させてくれるので、書いていて不安はありませんでした。台詞回しや心理描写についても、ほぼキャラクター任せで悩むことがなかった。デビュー以来、十三年もつき合っている連中なので、僕の中ではすでに独立した人格になっているんです。次々に浮かんでくるシーンにタイピングの速度が追いつかなくて、もどかしい思いをしました。他のシリーズでは味わえない感覚で、とても楽しかったですね。

左眼の視力を失って
激しく揺れ動く八雲の心

――都内マンションで心霊現象が起きているという相談を受け、私立探偵の後藤と僧侶の英心が調査に向かいます。そこで彼らはポルターガイスト現象を目の当たりにして……というのが物語の発端。樹海を舞台にした前作から一転、都会的な事件が扱われていますね。

神永 どんな事件を扱うのがふさわしいのか、このシリーズでは毎回悩むところです。派手ならいいというわけではなく、描きたいテーマと事件が合致していなければいけません。今回は主人公である八雲が、自らの過去に向き合うという物語。竣工間もないマンションで心霊現象が起こって、その土地の来歴に目が向けられるという事件にすれば、うまくテーマと響き合うなと思いました。一回読むだけでは気づきにくいかも知れませんが、作品の厚みを出すためにそういう工夫は凝らすようにしています。

――一方、新聞記者の真琴は、自宅で心霊写真を撮ったというカメラマンから相談を受けます。いつもならたちまち八雲が真相を見抜くところですが、今回はそうもいきません。前作で左眼に傷を負い、霊を見る力を失ってしまったからです。

神永 前作を書き終えた時点で、次回作は八雲の左眼にあらためてスポットを当てる物語にしようと考えていました。これまでの事件を通して、八雲の内面はずいぶん変化し、周囲の存在を受け入れられるようになってきた。でも、そのきっかけとなった赤い左眼については、まだ受け止めきれていません。それは自分の忌まわしい過去と結びついているので、向き合うことを避けてきたんです。今回、その左眼を失うことで、八雲の心は大きく揺れ動く。事件でポルターガイスト現象を扱ったのも、“幽霊は物理的な影響力を持たない”という八雲の考えと矛盾する現象を描くことで、葛藤をより大きくできると思ったんです。

――左眼を失った八雲は「これで、もう嫌なものを見なくて済む」と嘯きながら、自分の存在価値に疑いを抱くようになります。いつもはクールな八雲が弱音を吐く姿に、読者は驚くかも知れませんね。

神永 これはデビュー当初から話していることですが、「心霊探偵八雲」はミステリーを目指して書いた作品ではありません。描きたかったのはあくまで一人の青年の成長物語。不幸な生い立ちを持つ八雲が、事件を通して様々な人と出会い、人間的に変化してゆく姿を描くというのが主眼でした。だからこそ探偵役なのに弱音も吐くし、人間臭く悩みもします。話の性質上、同じパターンをくり返すことはできないし、いつか終わりが訪れるんですね。長年このシリーズを追いかけてくれた読者は、そうした人間ドラマの部分を支持してくれているのかなと思います。

キャラクターに引っ張られて
予想外の場所にたどり着く

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――一連の事件は後藤の養女となった奈緒が失踪することでさらなる展開を見せます。そのうえ後藤まで大変なことに。

神永 後藤は八雲を中心とするグループの精神的な支柱です。その後藤が重傷を負うことで、八雲はさらに孤立を深め、窮地に立たされてゆく。そんな中、ヒロインの晴香が自分にしかできないことを自覚してゆくんです。八雲が抱えている問題は、後藤が「くよくよ悩んでんじゃねえ!」と怒鳴って解決するものではありません。自分を苦しめてきた能力と向き合うためには、晴香のもつ優しさが必要。このシリーズは昔からある物語の枠組みである、ボーイ・ミーツ・ガールの形式を取っているんです。みんなが気味悪がっていた赤い瞳を、晴香が「きれい」と言ったことで物語が動き出した。ここでも八雲を動かすのは、やはり晴香の存在なんですね。

――心を閉ざしかけた八雲を、晴香は励まし、叱りつけさえします。八雲に頼りきりだったシリーズ初期に比べると、晴香もずいぶんイメージが変わりました。

神永 変わりましたよね。1、2巻の頃、晴香はとにかく女性ファン受けが悪かったんです。それが今では読者投票をするとぶっちぎりで女性キャラクターの人気ナンバーワンですからね。読者との交流会を開いても、「あの二人はいつくっつくんですか?」という質問ばかりで(笑)。晴香の成長ぶりがきちんと読者に伝わっているとすれば、嬉しいことです。

――マンションの周囲で地道な聞き込みを続ける真琴、後藤に代わって奈緒の行方を懸命に追う刑事の石井など、多彩なキャラクターが織りなす群像劇としても楽しめます。

神永 そこはシリーズを書いてきて自分でも予想外だった部分です。作者としてはあくまで八雲と晴香を軸にした物語を書いているつもりだったのに、思ったよりサブキャラクターの自己主張が強かった(笑)。石井なんてもともと後藤に相棒が要るというだけの理由で出てきたキャラクターです。それが描いているうちにどんどん内面が溢れてきて、人間的にも変化していった。後藤が奈緒を引き取るという展開にしても、当初はまったく想定していませんでした。キャラクターに引っ張られ、思惑と違ったところに連れて行かれるのは、このシリーズの面白さでもあります。

――物語の中盤、自分を信じる者たちに背中を押されて、八雲は一歩前に踏み出そうとする。心に残る力強いシーンです。

神永 良くも悪くも人間を変えるのは、他人との出会いなんだろうと思います。もし晴香と出会わなければ、八雲はずっと自分の殻に籠もったままだったはず。あらためて読み返してみると、1巻の八雲って、まあ嫌なやつなんですよね(笑)。晴香がいて、後藤がいて、石井がいて、真琴がいて、初めて今の八雲がいる。人との繋がりが人生を変えてゆくというのは、他の作品とも共通するテーマですが、この巻では特にそれが色濃く出たのかなと思います。

――このシリーズで神永さんが描いている成長とは、自分で自分を肯定できるようになる、ということですよね。

神永 子どもの頃は特にそうですが、人とどこか違った部分があると、奇異の目で見られたり、いじめの対象になったりする。でもそれは見方を変えると、その人の個性や特色でもあるんです。八雲の赤い瞳を晴香が「きれい」と言って魅力に変えてしまったように、他人の価値観に触れることで、自分は自分だと受け入れられるようになる。石井の優柔不断さだって、真琴の目には優しさに映っているわけですよね。もし読者の方々が何らかのコンプレックスに苦しんでいるとしても、八雲や石井のように少しずつ変わってゆくことは可能だと思うんです。

完結まで
ペースをあげて
全力で書いていきたい

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――後半では、あの人物の知られざる過去が明らかになります。こんな秘密があったとは、驚きました。

神永 これは性善説というわけではないんですが、世の中には悪を意図して為そうとする人間ってほぼいないと思います。どんなに理解できない行動であっても、その人なりの価値観や正義に突き動かされている。そこを描かないと単なるシリアルキラーになってしまう。ミステリーとしての意外性を重視するなら、犯人の内面を描かない方が効果的かも知れませんが、僕はあくまで「ミステリー要素のあるエンターテインメント」だと思っているので。とってつけた形ではなく、動機や過去について触れていきたいんです。

――事件解決後、あるキャラクターの口から読者の不安をかき立てる台詞が発せられます。どうやら次回作も大変なことになりそうですね。

神永 あそこで次に続くのか、と怒られそうですが(笑)。いよいよクライマックスですから、八雲たちにはさらなる試練が待ち受けているはずです。最近、何かを楽しみに待つという経験がめっきり少なくなりましたよね。そんな時代に「続きはまだか」と言ってくれるファンがいるのはありがたいこと。シリーズものならではのハラハラを、思う存分味わってもらおうと思っています。

――「待て! しかして期待せよ!」というわけですね。二月にはシリーズ外伝にあたる『心霊探偵八雲 ANOTHER FILES 亡霊の願い』が刊行されましたし、舞台版『心霊探偵八雲 裁きの塔』の上演も決定しました。今年は「八雲」から目が離せなくなりそうです。

神永 今度は五年もお待たせすることがないよう、完結に向けてペースをあげていくつもりです。このシリーズを長年読んできたファンは目が肥えているので、誤魔化しは一切ききません。「この9巻の台詞、5巻の八雲なら絶対言わなかったですよね」と、作者が驚くような鋭い感想をくれたりする。とにかく小手先のテクニックに頼らずに、全力で書いていきたいですね。僕がデビューしたての頃、当時の担当編集者に「お前みたいな新人、出し惜しみしたら読者がひとりもいなくなるぞ」と口を酸っぱくして言われました。本当にその通りですよね。下手に格好つけることなく、「八雲」の世界に身を委ねて、ラストまで書ききろうと思っています。

神永学(かみなが・まなぶ)
1974年山梨県生まれ。2004年『心霊探偵八雲 赤い瞳は知っている』で、プロデビュー。同作から始まる「心霊探偵八雲」シリーズが、若者を中心に圧倒的な支持を集める。他著作に、「怪盗探偵山猫」「天命探偵」「確率捜査官 御子柴岳人」「浮雲心霊奇譚」「殺生伝」「革命のリベリオン」などのシリーズ作品のほか、『イノセントブルー 記憶の旅人』『コンダクター』などがある。

取材・文|朝宮運河  撮影|ホンゴユウジ

KADOKAWA 本の旅人
2017年4月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

KADOKAWA

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