「心霊探偵八雲」シリーズ最大のターニングポイントに注目せよ!

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心霊探偵八雲10 魂の道標

『心霊探偵八雲10 魂の道標』

著者
神永 学 [著]/加藤 アカツキ [イラスト]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784041013502
発売日
2017/03/31
価格
1,296円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

赤い瞳に映らないもの――シリーズ一のターニングポイントに注目せよ!

[レビュアー] タカザワケンジ(書評家、ライター)

 抜群のリーダビリティとスピーディな展開、魅力的なキャラクター。三拍子揃った人気シリーズの最新作にして、ターニングポイントとなる重要作品である。

 主人公の斉藤八雲は大学生。イケメンだがボサボサ頭で風采は上がらない。だが、彼には普通の大学生とは異なる点があった。ふだんはコンタクトレンズで隠しているが、左の瞳が真っ赤に染まっているのだ。しかもその眼は幽霊の姿を見ることができた。心霊探偵八雲シリーズとは、八雲がこの特異な体質を使って心霊現象がからんだ事件を解決する作品だ、とひとまず説明することができるだろう。

 しかし、八雲は秀でた能力を駆使するヒーローたちとは異なる。なぜなら、彼は赤い瞳に複雑な思いを抱いているからだ。その能力は事件解決に役立つ以前に、さまざまな災厄をもたらしてきた。実の母に殺されそうになった幼少期のトラウマ、幽霊の姿が見えるばかりに遭遇するさまざまなトラブル……。八雲は心を閉ざし、人と関わらないように生きてきた。しかし、シリーズ第一作『赤い瞳は知っている』で、同じ大学の学生、小沢晴香と出会ったことが転機になり、八雲の行動に少しずつ変化が生まれ始める。

『魂の道標』は記念すべきシリーズ第十作である。一作ごとに完結しているため、この作品から読んでも支障はない。しかしすぐに遡って過去の作品を読みたくなるはずだ。というのも、このシリーズは、八雲と赤い両眼を持つ男との闘いを描く大河小説としての側面も持つからだ。八雲と晴香はさまざまな事件に巻き込まれていくのだが、事件の背後には、つねに赤い両眼を持った男の姿が見え隠れする。男の正体は誰なのか。八雲とはどんな関係にあるのか。読み始めたら最後、全作をコンプリートしたくなるだろう。また、ナンバリングされたシリーズのほかに、中学時代の八雲を描く「SECRET FILES 絆」と、「ANOTHER FILES」四冊が刊行されている。これらは外伝的な位置づけで、八雲や周囲の登場人物たちのエピソードが楽しめる。

『魂の道標』はシリーズの転換点となる作品だと書いたが、冒頭からこれまでになく波乱含みのスタートとなっている。前作『救いの魂』で赤い左眼を斬りつけられた八雲は、傷は癒えたものの視力を失ったままなのだ。

 事件はある新築マンションでポルターガイスト現象が頻発するところから始まる。元刑事で現在は心霊専門の探偵を開業した後藤は八雲に協力を依頼する。しかし左眼の視力を失っている八雲は手は貸せないと断る。八雲にとって、霊が見えなくなるということは普通の人に戻ることであり、ある意味では歓迎すべきことだった。しかし、異母妹の奈緒が霊に憑依され、姿を消したことから葛藤に苦しむことになる。左眼の視力が失われたため、大切な人を救うことができなくなった自分に、存在価値があるのかと自問自答するのだ。

 しかし、八雲は一人ではなかった。熊のようにいかついが心優しい後藤と、その元部下の若い刑事、石井。北東新聞社の記者、真琴など、おなじみの登場人物たちが奮闘し、事件解決に動く。八雲の左眼が封印されたことで、彼らの能力がいつも以上に発揮されるのである。そして、晴香もまた、殻に閉じこもった八雲に対し、ある行動を取る。

 八雲と晴香の間に心の交流があることは、シリーズの愛読者ならだれでも知っていることだ。同時に二人の関係がなかなか進展しないことも。ところが、この作品では変化の兆しが現れる。これ以上は書けないが、シリーズがクライマックスに向けて動き出していることは間違いないようだ。

 かといって、シリーズが早晩完結するというわけではないようだから安心してほしい。いや、安心はできない。というのは最後に……これ以上はやめておこう。一つだけ言えるのは、次回作が待ち遠しい! ということだ。

KADOKAWA 本の旅人
2017年4月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

KADOKAWA

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