美しき女性パイロットが鮮やかに謎を解く! 『機長、事件です!』刊行記念インタビュー 秋吉理香子

インタビュー

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機長、事件です! 空飛ぶ探偵の謎解きフライト

『機長、事件です! 空飛ぶ探偵の謎解きフライト』

著者
秋吉 理香子 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784041050835
発売日
2017/03/25
価格
1,620円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

秋吉理香子『機長、事件です! 空飛ぶ探偵の謎解きフライト』〈刊行記念インタビュー〉 ”切れ者”の女性機長と新米副操縦士が事件の真相を軽やかに暴くトラベル・ミステリ

2013年、一見きらびやかな女子高生たちの裏側を描いた 『暗黒女子』で、一躍時の人となった秋吉理香子さん。“イヤミスの新旗手”としても名高い秋吉さんの、これまでと新作について、じっくりお話を伺ってきました。

純文学に憧れた少女時代を経て
「イヤミス」界の寵児へ

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――人の心の闇をえぐり出し、読後に嫌な気分を残すミステリ作品のジャンルとして確立している「イヤミス」。秋吉さんは『暗黒女子』(双葉社)を皮切りに多数のヒット作品を生み出し、いまや「イヤミス界の女王」という地位を確立しつつありますね。ご自身はそういった評価をどう感じていらっしゃいますか?

秋吉 すごくありがたいと思っています。実は『暗黒女子』を書くまではミステリを全く読んだことがなかったんです。そんな私の作品を人気のジャンルに加えていただけてとても光栄です。

――全くミステリを読んでいなかったとは意外です。もともとは、ミステリ作家を目標とされていたわけではないのでしょうか。

秋吉 そうですね。昔から読書が大好きで「小説家になりたい」という夢は持っていましたが、ミステリに触れるようになったのは随分後のことでした。小さい頃は岩波世界児童文学集などをよく読んでいましたが、小六のとき、カフカや太宰治の作品を読んで衝撃を受けました。ひたすら悲惨で救いがない。そういう小説を読んで「小説って人間の裏側や不条理を描き出していいものなんだ」って気づいて。私もそういったものを書きたいなと思ったことが小説家を目指したきっかけです。

――心の内側にスポットを当てる、といった秋吉さんの作風はそのときの衝撃が原点だったんですね。では、その頃から小説を書くように?

秋吉 作品としてきちんと完成できたのは早稲田大学第一文学部の文芸専修に入ってからです。在学中に短編三つと中編を一つ仕上げたんですが、どれも微妙で。当時の私は純文学を目指していて、純文学しか頭になかったんです。

――エンターテインメント作品を発表されている今とは真逆の方向性だったとは!

秋吉 「オチを無理につけてはいけない」と、よく言われていましたね。自分でもしっくりこないまま、卒業後はアメリカの大学院へ入学し、映画学科で脚本の勉強をしていました。そのときもひたすら「文學界」や「すばる」など純文学の文芸誌へ投稿していましたね。

――一途に純文学への熱い想いを燃やしていた、と。

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秋吉 そうなんです。大学院を卒業後に初めて「すばる」の最終選考に残れたのですが、そこでの選評は「エンタメっぽい」と。「なんでかな~」と思いましたが、向いていないことをしていたから、ダメだったんだな、と今は思います(笑)。最初からエンタメを目指していたら遠回りせずに済んだのかも。

――きっと遠回りがあったからこそ、今の秋吉さんの作品があるはず。仮に若くして純文学で賞を獲っていたら、これまでの作品は生まれなかったのでは?
 
秋吉 確かに、遠回りしている期間に得たことは大きかったですね。大学院で受けた脚本の授業は今でも役立っています。映画って一分あたりの制作費に何百万とかかることも当たり前で、無駄は潔く削ぎ落としていく。そのシーンは要るのか、要らないのか、と判断できる力が養われたと思います。

――秋吉さんの作品を読んでいると、映画を観ているような感覚を持ちます。景色や人物の表情など、登場人物の心情をリアルに感じさせるための、カット割りが巧みに行われているような。シーンが自然と目に浮かぶ、という印象があります。

秋吉 ありがとうございます。院では脚本だけでなく、プロデュース、カメラワーク、編集など、ひとりで映画が作れるようにしてもらえました。その勉強も生かされているのかもしれません。卒業後は、アメリカでしばらく映画関係の仕事をしていましたが、やっぱり自分の作品を仕上げたくて。仕事をしながら投稿して、何度かノミネートされつつも、結果は出せず……の繰り返しでした。

――それだけ純文学を目指されていたなかで、エンタメ作品を描くようになったきっかけは何だったのでしょうか。

秋吉 純文学を意識せずに書いた「雪の花」という短編でYahoo! JAPAN文学賞をいただけたことが転機になりました。受賞後、短編集として出版した『雪の花』を読んで、双葉社の編集の方が「すごくミステリ向きだと思うので、書いてみませんか」と言ってくださったんです。「読んだこともないし、書けないです」と流しても、勧めてくださって。「じゃあ……」と、ひとまずいろいろなミステリを読むことから始めました。

――これまで触れてこなかったミステリ作品を読んでみての感想はいかがでしたか。

秋吉 ミステリは「刑事コロンボ」とか「相棒」みたいな、殺人事件に刑事が出てくる作品のことを指していると思っていたんです。けれど、辻村深月さんや歌野晶午さんの作品は人間の内面を描くミステリであって、それがとてもおもしろくて。これなら私も描きたいと、「私なりのミステリを書こう!」と思って完成したのが『暗黒女子』でした。

――『暗黒女子』の舞台は女子校の文学サークル。謎の死を遂げた会長を題材に、メンバーが自作の小説を朗読し合います。けれどそれらは矛盾していて……と、女子グループならではの嫌~なマウンティングが描かれていますよね。

秋吉 女子高生ならではの美しさや危うさを描きたくて。人間の裏側を描きたい、という幼い頃に感じた想いをミステリで表現することができた、思い出深い作品ですね。

自分にしか書けない
ミステリを

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――最新作の『機長、事件です!』は、旅客機を舞台に、新人副操縦士・間宮治郎と、エリート女性機長・氷室翼のW主人公による航空ミステリ。これまでのシリアスな作品とは異なる、ユーモアもあるエンターテインメント作品となりましたね。

秋吉 もともと関西出身ということもあり、シリアスな作品を書いていても、本当はギャグも言いたいねんっていう想いもあって(笑)。KADOKAWAさんから「何かミステリ作品を」とお話をいただいて、まず浮かんだのはKADOKAWAといえば映像作品と書籍のメディアミックスの本家。せっかくだからスケールの大きな楽しいものにしたいと、「ぜひ舞台を空の上に!」と思ったんです。

――「空の上」というアイデアは、以前からお持ちだったのでしょうか?

秋吉 実は、私の父も母も姉もパイロットなんです。私だけ家族の中で操縦士の資格を持っていないマイノリティー(笑)。そんなおいしいネタ、いつか作品にするしかないと思っていたので、この機会に、と。

――満を持しての作品となったわけですね。今作は四話構成で、一話目は往路の機内、二話、三話目はステイ先、四話目は復路の機内、と航空会社が舞台ならではの構成がおもしろいですね。

秋吉 航空ミステリって、テロやハイジャックなど暗いものが多いんですよね。そういうのは書きたくなくて、どうすればおもしろい読み物になるだろうと思っていたときに、プロットの締め切りギリギリで「往路、ステイ、復路と完結させることで、読者の方も一緒にフライトに出ているような感覚になれば」と思いつきました。

――登場人物は航空会社に勤務、舞台は空の上、と特殊な設定ですが、物語を考える上でいろいろと苦労されたこともあったのでは?

秋吉 もちろんわからないことばかりで。どんなトリックが成立するかもわからないので航空関連の本を百冊くらい買いました。資料の読み込みと、それをどう作品に昇華させるか、というところに苦労しましたね。

――そうした難しい設定だからこそ、物語にスムーズに感情移入させてくれる、個性的で魅力あふれる登場人物たちの存在は大きいですね。

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秋吉 そうですね。せっかくなら主人公は女性機長にしたいという想いもあって。かといって、女性機長が奮闘してがんばる成長物語はなんだかしっくりこなくて。「そうだ、主人公を二人にしたらいい」と思って、女性機長と副操縦士のW主人公にしました。女性機長は美人でクールですごく優秀。そんな機長に憧れながら成長していく新人副操縦士……と、そこから世界観がどんどん広がっていきました。

――治郎は素直で真面目だけれどちょっと抜けたところもあって、思わず応援したくなるキャラクターですよね。その分、クールな翼の個性が際立って、凸凹コンビの掛け合いがほほえましい。そして、ちょっとチャラいけれど優秀なSIC(第二機長)幸村幹雄や才色兼備のCA・多岐川など、魅力あふれるキャラクターも物語に緩急を加えていますね。

秋吉 PIC(機長)やSICなど、操縦士にもいろいろ役職があることも物語を作る中で知って、それぞれの役職に合わせた特徴と魅力をキャラクターに持たせようとしました。シリアスだけでなくユーモアもある。良いバランスで書けたかな、と思います。

――そして特筆すべきは、パイロット業務の緻密な描写。航空業界に勤めている方や愛好家の方にとってはたまらない内容のはず。全く知らない人にとっても、パイロットってこんなにたくさんの技術と知識が必要なんだ! と興味深く感じられると思います。

秋吉 そう言っていただけるとありがたいです。父や母、姉に事細かに取材しましたからね。燃料消費までも考慮しながら、気象状況などに合わせて高度や速度を調整しつつ操縦する……。コックピット内の仕事を細かく描くことで、治郎と翼の心理状況や関係性の変化に説得力を持たせるようにしました。

――緊張感あふれる機内の雰囲気とは打って変わって、二話、三話はステイ先でのオフタイムが描かれ、より治郎たちの人となりが楽しめますね。クリニャンクール(パリの蚤の市)や、モン・サン・ミシェルで事件に巻き込まれるわけですが、あえて旅情を誘う場所を舞台に選ばれたのでしょうか。

秋吉 三話目はトリックをすでに考えていて、美しくて謎めいたところがいいなと、孤島に浮かぶモン・サン・ミシェルがぴったりだと思って決めました。二話目の舞台は、父が「クリニャンクールは絶対おもしろいよ」ってアドバイスをくれたんです。いろいろな人が行き交う蚤の市だからこそ事件が起きそう! と思って。ネタ元は父です(笑)。

――パイロット一家に生まれた秋吉さんだからこそ、描くことのできた作品ですね。

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秋吉 はい。父には何回も読んでもらって添削してもらいました(笑)。母や姉にも協力してもらったので、ファミリープロジェクトが完成したような気持ちです。ミステリ界には素晴らしい先人がたくさんいらっしゃって、私はまだまだ駆け出しの新人だけれど、「この作品は私にしか書けない」という自信はすごくあります。

――今作は、秋吉さんならではのスピーディな展開で魅せるミステリでありながら、素直な治郎の視点で描かれる人間ドラマの要素もあります。これまでの秋吉ファンはもちろん、ミステリ初心者の方も読みやすいのでは。「イヤミス」はもちろん、今後はこうした作品もたくさん発表してほしいです。

秋吉 そうですね。もし『機長、事件です!』がシリーズ化できたら、海外だけでなく空港内でもドラマが生まれそう。様々な人が行き交い、遠く離れた街へと飛び立つ玄関口である空港や飛行機にはロマンがありますよね。そのぶん、お話を考えるネタも豊富。治郎の成長過程や、翼のバックグラウンドなど、人物像ももっと深掘りしていきたいですね。

秋吉理香子(Rikako Akiyoshi)
早稲田大学第一文学部卒業。ロヨラ・メリーマウント大学院にて、映画・TV製作修士号取得。2008年、「雪の花」で第3回Yahoo! JAPAN文学賞受賞。09年、受賞作を含む短編集『雪の花』にてデビュー。13年に注目を集めた『暗黒女子』は、17年4月に映画公開を控える。近作に『絶対正義』『サイレンス』など。

取材・文|杉田裕路子  撮影|沖本 明

KADOKAWA 本の旅人
2017年4月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

KADOKAWA

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