鳥の世界にも意識を広げ日常の光景を豊かにする 『カラスの教科書』など3冊

レビュー

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  • カラスの教科書
  • カラス屋の双眼鏡
  • フィンチの嘴
  • ダック・コール

書籍情報:版元ドットコム

鳥の世界にも意識を広げ日常の光景を豊かにする

[レビュアー] 瀧井朝世(ライター)

 カラスが重要な役割を果たす小説に万城目学『バベル九朔』や阿部智里〈八咫烏シリーズ〉があるが、それぞれ別の機会に著者インタビューした際、二人ともが挙げた書名がある。松原始の『カラスの教科書』(講談社文庫)だ。動物行動学の専門家による、カラスにまつわる蘊蓄をユーモラスに紹介する一冊で、すっかり著者のファンとなった。新作『カラス屋の双眼鏡』も、カラス以外の生物も登場する楽しい読み物だ。野山でのフィールドワークはもちろん、町中での鳥の観察の仕方やカラスとの会話方法(人の声や物音に返事をすることがあるという)などをウキウキと紹介する筆致は、日頃から鳥の世界にも意識を広げるだけで日常の光景が非常に豊かになると感じさせる。研究室に持ち込まれたカラスのヒナや、飼育していたジュウシマツとのエピソードは愛おしく切ない。他にもホオジロやオオヨシキリ、チドリなどさまざまな鳥、さらには蛇やクモ、猫にまで言及し生き物愛にあふれている。

 本書の序章で少しだけ、ガラパゴスフィンチの研究で有名なグラント夫妻との交流に触れている。それで思い出すのがジョナサン・ワイナーの『フィンチの嘴』(樋口広芳、黒沢令子訳、ハヤカワ文庫)。ダーウィンの進化論で有名なガラパゴス諸島で、1970年代から20年以上にわたりフィンチの研究を続けた生物学者夫妻を追ったピュリッツァー賞受賞作だ。日本でも95年の邦訳刊行当時から話題になり、読み継がれている。「種の進化」というと過去の出来事のイメージもあるが、実は今も進行中である事実に自然の驚異と可能性を感じずにはいられない。

 鳥の描写が印象に残る小説といえば、稲見一良の『ダック・コール』(ハヤカワ文庫)。青年が見たいくつかの鳥にまつわる夢を描く連作集だ。現代日本のリアリスティックな話から、メキシコ国境のハードな内容まで彩り豊か。第二話のリョコウバトの大群の迫力と個体の美しさの描写が見事。91年に山本周五郎賞を受賞した作品である。

新潮社 週刊新潮
2017年5月18日菖蒲月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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