AIはいかに人間を超えるのか
[レビュアー] 碓井広義(メディア文化評論家)
根っからの文系人間のせいか、「文系のための」といったタイトルに弱い。高橋透『文系人間のための「AI」論』のテーマはまさにAI(人工知能)だが、数学的解説も技術的説明も出てこないのが特色だ。
そもそも著者の専門は西洋哲学である。ニーチェやデリダの研究者がなぜAIなのか。ロボットやAIなどのテクノロジーが人間の感情や思考を模倣しはじめた時代。「人間とは何か?」を考える貴重な手掛かりがそこにあると言うのだ。
これまで「人間に近づいてきた」AIだが、いまや「人間を超える」ことの不安も出てきた。どこまでコントロールできるかという暴走のリスクだ。これからのAIは自動的に自分自身のプログラムを改良するようになる。「あるレベルでは人間の想定を裏切り、人間の引いた線引きの枠を内側から打ち壊して、AIは勝手に一人歩きをはじめる」可能性が高い。
さらに著者は怖いことを言う。人間はやがてAIと融合、つまり「人間のサイボーグ化」が進むと。漫画『サイボーグ009』や『攻殻機動隊』の世界だ。それは「ポスト・ヒューマン」と呼ばれ、人間そのものの変容でもある。今後テクノロジー開発をどこまで許すのか。いや、止められるのかが大きな課題だ。
現在、日本をはじめ世界各地で行われているAI開発の最前線については、将棋の羽生善治とNHKスペシャル取材班による報告『人工知能の核心』(NHK出版新書)が参考になる。