『超一極集中社会アメリカの暴走』 小林由美著

レビュー

5
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超一極集中社会アメリカの暴走

『超一極集中社会アメリカの暴走』

著者
小林 由美 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
社会科学/社会科学総記
ISBN
9784103508717
発売日
2017/03/24
価格
1,620円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『超一極集中社会アメリカの暴走』 小林由美著

[レビュアー] 三浦瑠麗(国際政治学者・東京大講師)

政治の怠慢どう直す?

 トランプ大統領が当選した背景には、従来の共和党支持層に加えて、北部産業州の白人のブルーカラー労働者が、トランプを熱烈に支持したことがあった。そうした白人労働者の願いは、製造業の復権であり、自分たちのような中間層の生活と雇用を守ることであった。民主党の予備選で、相当程度左寄りのサンダースが強い支持を集めたのも、今回の大統領選の特徴だった。サンダース支持層は、財産形成ができておらず、教育ローンの返済に悩む若者や、中間層の底が抜けてこぼれ落ちた白人を多く含んでいた。2016年の大統領選は、グローバル化によって相対的な優位を失いつつある中産階級の動向が大きく影響した選挙だったのである。

 本書は、在米生活の長い著者が感じたアメリカ社会や経済への危惧を綴(つづ)ったものだ。資本主義が適切に修正されない中で、野放しになった金融の分野における逆インセンティブ(社会的に好ましくない方向に誘因が働いている状態のこと)。あるいは成長をもたらす資本主義が生み出す格差の大きさ。技術革新によって置いてけぼりを食う層。殊(こと)に、第7章ではそのような社会不安に対して、事実に基づかないストーリーを広め、安直な夢を提供したトランプへの厳しい批判が繰り広げられる。

 本書が類書と異なるのは、著者が根っこの部分で資本主義に敵対的ではないということだ。本書が冒頭記しているように、アメリカ社会は成長と安定のバランスを模索すべきだ。今生じている社会不安は、富の分配や公正な競争を確保するための措置を担うべき「政治」の怠慢によって起きている。社会が不安定になると、移民に対する排斥感情が生まれたり、行き過ぎた大企業バッシングが行われたりしてしまう。

 一つ注文を付けるとすれば、本書では、政治プロセス全体を見据えた提言がなされていない。民主主義の暴走をいかにして止めるのか、世界的な変動期における一番の課題であろう。

 ◇こばやし・ゆみ=1982年、米・ウォール街で証券アナリストに。著書に『超・格差社会アメリカの真実』など。

 新潮社 1500円

読売新聞
2017年5月7日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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