<東北の本棚>美術家の使命感と愛情
[レビュアー] 河北新報
芸術は苦しむ人を救えるか。芸術家は作品を通して何を伝えるべきか。アーティストを目指す若者をどこへ導けばよいのか。
日本を代表する現代美術家の一人で、教育者としても活動する宮島達男さんの思想や活動の軌跡、近年の発言などをまとめた一冊だ。ドローイングなども収められており、宮島芸術の全体像が浮かび上がる。
宮島さんは、デジタルの数字で深遠な生命観、宇宙観を表した作品などが高く評価され、世界70以上の美術館が作品を収蔵している。創作活動の一方で、長崎原爆で被爆した柿の木の2世の苗木を用いた「時の蘇生・柿の木プロジェクト」を国内外で展開。2006~16年に東北芸術工科大(山形市)の副学長、現在も客員教授を務めるなど、教育の現場にも立ち続ける。
本書は3章から成る。第1章は自らの創作の三つのコンセプト「それは変化し続ける、あらゆるものと関係を結ぶ、永遠に続く」が、どんな思想哲学に立脚するか、またこのコンセプトによって何を伝えようとしてきたかを、丁寧に解説する。
第2章は若い世代のため10年に始めたツイッターへの投稿から抜粋。第3章は新聞などへの寄稿の一部を収めた。美術で最も大切なのは、オリジナルな世界を展開することだと強調。若い学生にも自分の価値観と発想を徹底的にぶつけてきたことを振り返り、「大人の責任とは、若者たちの揺るぎない壁となること」だと語る。戦争の反対語は平和でなく芸術だとの時論も展開。悲惨な出来事が相次ぐ世界に対し何もできないアートなら、必要ないと言い切る。
思索する美術家の使命感、アーティストを目指す若者への愛情が伝わってくる。
アートダイバー03(5352)1023=1728円。