明文堂書店石川松任店「澤村先生、どこまでフィクションなんですか?」【書店員レビュー】
[レビュアー] 明文堂書店石川松任店(書店員)
澤村電磁というペンネームで『ぼぎわん』というタイトルの原稿を送り、第二十二回日本ホラー小説大賞を受賞した香川隼樹は再婚した妻の霧香と喜びを分かち合う。香川が受賞の報告を内輪の遊びで小説を見せ合っていた友人たちにしたところ、友人の一人が香川の前の妻の名前を出し、過剰な反応を見せる。不幸を糧にすることが作家を育て、自身はそんな作家の《常識ある理解者》として作家を支えていきたい。偏見に満ちた感情を押し付け、香川に執拗な嫌がらせを繰り返す。帯や第一章のタイトルにある通り、ファンの屈折した心理を描いたスティーヴン・キングの名作『ミザリー』が頭に浮かんできます。しかし物語の展開はやがて意外な方向に進んでいきます。
これは怖い。本当に怖い。物語が進む内に、それまで見ていた景色とは真逆の景色が読者の前に広がるのですが、景色が変わる前も変わった後も《人間が一番怖い》という言葉が刺さり続ける。そして本の感想とかを他人が見る場所に書いたことがある人には、他の人より、さらに怖いと感じるはずの部分があります。だから正直、書きながらすこしドキドキしています(悪いことを書いていないにも関わらず……)。
本書は著者のデビュー作『ぼぎわんが、来る』と密接に関わりがある作品ですが、読んでいなくても楽しめる内容になっています。けれど『ぼぎわんが、来る』も読んでおくと、結構得した気分で読むことができるので、是非ご一読をおすすめします。
ちなみに現実と虚構の曖昧さが恐怖を盛り立てる作品として、三津田信三『忌館 ホラー作家の棲む家』も併せておすすめします。