明文堂書店石川松任店「まだ見ぬ明日に想いを馳せたくなる作品」【書店員レビュー】

レビュー

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願いながら、祈りながら

『願いながら、祈りながら』

著者
乾ルカ [著]
出版社
徳間書店
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784198941741
発売日
2016/12/02
価格
702円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

明文堂書店石川松任店「まだ見ぬ明日に想いを馳せたくなる作品」【書店員レビュー】

[レビュアー] 明文堂書店石川松任店(書店員)

 生徒総数五人の生田羽中学校生田羽分校の社会科教諭に着任した林は、かつて自分を裏切った恋人を見返したいという想いから司法試験の合格を目指していた。そのためにこの中学校を一刻も早く辞めて、都会に戻り、試験勉強に専念したいと考えていた。そんな林の想いを見抜いた下宿先の久松は、断罪も、諭すこともしなかった。しかし、分校が本校に統合されるまでの一年間を、子どもたちのために教師として使ってほしい、と頭を下げる。子どもたちと向き合おうと考え直す林だったが、生徒のひとりである白石弥生の言葉に気持ちがくじけそうになってしまう。……と無気力な教師の変化が描かれる第一章が終わると、それ以降は各章で生徒たちの物語が綴られるようになる。最後の章でふたたび教師である林の視点に戻るのだが、それまでは脇に追いやられるような形になっている。しかしすこしずつしか登場しないものの、彼の成長が分かるのがとても微笑ましい。
 そして章が進むごとに生徒のひとりである亮介の《嘘》が重大な意味を持ってくる。何故、彼は嘘を吐き続けるのか。浮かび上がる真実はあまりにも哀しいけれど、その果てに待つ結末は優しい。まだ見ぬ明日に想いを馳せたくなる作品です。
 子どもたちの振る舞いや言動の中には心情的に受け入れがたいものもあったのですが、それは《容易》な共感や理解を拒む物語とも言えます。これは美点だと思います。色彩豊かな人間関係が織り成す物語に、ぜひ、触れてみてください。

トーハン e-hon
2017年4月4日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

トーハン

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