『月の満ち欠け』
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明文堂書店石川松任店「瑠璃も玻璃も照らせば光る」【書店員レビュー】
[レビュアー] 明文堂書店石川松任店(書店員)
《瑠璃も玻璃も照らせば光る。//ことわざの意味――つまらぬものの中に混じっていても、すぐれたものは光を当てれば輝いてすぐにわかる。》本書はいくつもの人生の中に現れる、瑠璃、という美しい女性とそれに関わる人々の物語である。
物語はホテルのカフェから始まる。小山内の対面の席には一組の母娘が座っている。るり、という名前の娘は七歳の小学生には思えない大人の女のような姿勢で、生意気な口をきく。会話のやり取りから分かるのは、娘は小山内にとって見知らぬ少女であり、娘のほうは小山内のことを知っているようである、ということだ。そして小山内の娘の物である風呂敷に対して、平然と所有権を主張している。激することのない静かなやり取りだが、どこか噛み合わない、不穏な会話が続いた後、小山内のそれまでの人生が語られる。同郷の女性である妻との馴れ初め、七歳の時の発熱から始まる娘の異変、そして交通事故による妻と娘の死……。
瑠璃(るり)という一個の女性を巡る、運命の愛を描いた物語です……と書いて、すこし恥ずかしくなったのですが、本書はこういった気取った言葉が嘘くさく感じないほど、真摯な恋愛ファンタジーの傑作です。シルエットにも似た謎多き《瑠璃》が、徐々に色を帯びていく様はミステリとしても魅力的な内容になっています。
物語が迎える結末に心の琴線が触れたのを、間違いなく私は感じた。