明文堂書店石川松任店「私に誇れるものがあるとしたら……。」【書店員レビュー】

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蝿の王〔新訳版〕

『蝿の王〔新訳版〕』

著者
ウィリアム・ゴールディング [著]/黒原 敏行 [訳]
出版社
早川書房
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784151200908
発売日
2017/04/20
価格
1,100円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

明文堂書店石川松任店「私に誇れるものがあるとしたら……。」【書店員レビュー】

[レビュアー] 明文堂書店石川松任店(書店員)

 飛行機の不時着により、孤島で自分たちだけの生活を始めることになった少年たち。救援を待つ間、物語の世界のような状況を愉しむ少年たちだったが、不安やトラブルから徐々に彼らは対立していく。ラルフ、ジャック、ピギー、サイモン……似通ったところのない登場人物たちの心理や人間関係の変化が読者の心を鋭く抉る一冊です。
 ノーベル賞作家のウィリアム・ゴールディングが、1954年に発表した長編『蠅の王』は名作の誉れ高い優れた文学作品であると同時に、抜群の面白さを持つエンターテイメントの傑作でもあります。冒険小説やサスペンス、ホラーといったジャンルが好きな人(訳者あとがきで言及されている楳図かずお『漂流教室』、あるいは高見広春『バトル・ロワイアル』などが好きな人には特におすすめ!)にもおすすめしたい作品です。発表されてから、かなり長い年月が経っていますが、色褪せているようには思えませんでした。もし60年近く前の古典的な名作という理由から敬遠している人がいるとしたら、それはすこしもったいないような気がします。
 世の中には膨大な数の小説が存在しています。出会う小説の数より出会わない小説の数のほうが多いはずです。この小説に出会った時、私は学生でした。学生時代の私には何も誇れるものがありませんでした(今も大してないけれど……)。そんな私は、偶然、この小説(当時は新潮文庫版でした)と出会う幸運に恵まれ、何故かすこしだけ誇らしくなったのを覚えています。《自分の》物語を見つけたような気がして、嬉しくなったのだ。この小説が当時の私のような人に届くように、私はここに拙い文章を添える。

トーハン e-hon
2017年4月25日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

トーハン

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