『劇場』 又吉直樹著

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劇場

『劇場』

著者
又吉 直樹 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103509516
発売日
2017/05/11
価格
1,404円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『劇場』 又吉直樹著

[レビュアー] 服部文祥(登山家・作家)

痛々しく不器用な青春

 才能あふれるとはいかないが、そこそこはやっていけそうな、それでいてちょっと神経症気味の若い劇作家が人生をもがいている。天使のような同世代の女性と知り合い、親しくなっていく。プロットはベタな青春物語である。だが、自意識過剰で不器用なゆえに、主人公の身に起こる事件と、巻き込まれてしまう彼女の痛々しさがハンパない。

 知り合うきっかけは靴。

〈「靴、同じやな」

 その人は僕の汚れたコンバースのオールスターを見た。

 そして、「違いますよ」と言った。

「同じやで」

 同じであって欲しかった。〉

 演劇を志すかぎり、自分の才能だけが、先の見えない暗闇を照らすライトである。自分の才能を信じたい。いや、信じるしかない(それしかないのだから)。人生という劇場はたった一回の本番で、練習はできないし、やり直しもきかない。

 ときに公演がうまく行き、フラッシュのように行く先を明るく照らすこともある。そんな気がしただけなのかもしれない。彼女はいつもまっくらな道にぽつんと立つ街灯のように、主人公の闇を、ほんのすこし明るくしてくれる。だが、主人公はその手助けをすなおに受け入れることができない。ありがとうの一言が言えない。

 青春という綱渡りの痛々しさに、おもわず目を背け、頁(ページ)の最後のほうをちらりと確認して主人公は「まだ死んでない」と妙な安心をしてから、文字面を追いなおす。映像的で哀(かな)しく、それでいてきらりと光るロマンチックな男の人生と、登場人物たち。だがそれも……。

 大ベストセラーとなった前作『火花』から、それほど時間は経(た)っていない。聞くところでは本作を執筆していて行き詰まり、書いたのが前作だったという。著者の源流は本作だろう。

 ◇またよし・なおき=1980年大阪府生まれ。お笑い芸人として活躍する傍ら、2015年の小説『火花』で芥川賞。

 新潮社 1300円

読売新聞
2017年5月14日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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