『近代日本の洋風建築 開化篇、栄華篇』 藤森照信著

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近代日本の洋風建築 開化篇

『近代日本の洋風建築 開化篇』

著者
藤森 照信 [著]
出版社
筑摩書房
ジャンル
工学工業/建築
ISBN
9784480873897
発売日
2017/02/20
価格
4,104円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

近代日本の洋風建築 栄華篇

『近代日本の洋風建築 栄華篇』

著者
藤森 照信 [著]
出版社
筑摩書房
ジャンル
工学工業/建築
ISBN
9784480873903
発売日
2017/03/23
価格
4,320円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『近代日本の洋風建築 開化篇、栄華篇』 藤森照信著

[レビュアー] 奈良岡聰智(政治史学者・京大教授)

大邸宅や建築家を調査

 日本の近代建築研究を牽引(けんいん)してきた「建築探偵」こと藤森照信氏。氏が長年書き溜(た)めてきた論考を「開化篇(へん)」「栄華篇」の二冊にまとめたのが本書である。学術論文でありながら、物語性に富み、読みやすいものばかりである。

 著者は、「刊行されたすべての雑誌と本を読む」「残っているすべての建築を見る」「主要な建築家の遺族を訪れる」ことを心掛けてきたという。実証主義を徹底することは難しいが、著者は地道にこうした取り組みを実践してきた。多数収録されている写真や図面は、その証だ。

 今日から見れば意外であるが、戦後に近代建築史研究が始まってから長い間、大邸宅の研究はあまり行われていなかったという。民主化の中で、「金持ちの暮らしの研究」は敬遠されていたようだ。しかし著者は、こうした風潮に背を向け、三菱を創業した岩崎家や旧朝香宮家の関係者を訪問するなど、調査を重ねた。その結果、大邸宅という「忘れられた世界」の貴重な記録が残された。著者によって歴史が復元された邸宅が、今や旧岩崎邸庭園、東京都庭園美術館などとして公開され、多くの人びとに親しまれていることを考えると、感慨深いものがある。

 辰野金吾、伊東忠太といった個性豊かな建築家の人物描写も、本書の読みどころの一つである。中でも、「日本建築界の母」ジョサイア・コンドルについての論考が興味深かった。彼は、明治一〇年にお雇い外国人として来日した当初、政府関係の建築物を多数設計したが、後年は岩崎邸など個人住宅の設計に転じた。作風も、和と洋の架橋を試みた浪漫主義的なものから、古典主義的なものに変わった。著者によれば、暁英と号する日本画家としても活動するなど、日本趣味への造詣が深かったコンドルは、外形の切り張りによる和洋折衷に甘んじることができなかったのだという。コンドルの軌跡から、和と洋の裂目(さけめ)の深さという、近代日本の建築が背負った宿命が浮かび上がる。

 ◇ふじもり・てるのぶ=1946年長野県生まれ。建築家、建築史家。日本各地の近代洋風建築の調査を行う。

 筑摩書房 開化篇 3800円 栄華篇 4000円

読売新聞
2017年5月14日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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