『ダ・ヴィンチ絵画の謎』 斎藤泰弘著

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ダ・ヴィンチ絵画の謎 カラー版 (中公新書)

『ダ・ヴィンチ絵画の謎 カラー版 (中公新書)』

出版社
中央公論新社
ISBN
9784121024251
発売日
2017/03/22
価格
1,080円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『ダ・ヴィンチ絵画の謎』 斎藤泰弘著

[レビュアー] 出口治明(ライフネット生命保険会長)

「モナリザ」は誰か解読

 面白い。まるで推理小説を読むようだ。本書は、史上最高の画家、レオナルド・ダ・ヴィンチの最も有名な作品「モナリザ」の幾つかの謎を膨大に残されたレオナルドの手稿研究の第一人者である著者が、当意即妙の文章で縦横に論じたものである。嬉(うれ)しいことにカラー版、美術好きには堪(たま)らない1冊だ。

 著者はまず2つの謎を提示する。「どうして左右の背景はつながっていないのか?」「なぜ微笑(ほほえ)んでいるのか?」。レオナルドはミラノ時代に近代初の地質学者として調査に勤(いそ)しみ、観察結果などを踏まえ独特の大地隆起理論を完成させた。かつての海底は隆起して山岳になっているが、最後は大洪水によって再び水没し世界は破滅するという。それを表した好例が「聖アンナと聖母子」(ルーヴル蔵)で、後景と中景と前景は地球の過去と現在と未来の有様を描いたものだ、というのが著者の見立てである。同様に、モナリザの向って右側は人類の匂いのする現在の風景であり、左側は近い将来の洪水を予言したものなのだ。左右がつながっていないのは当然なのである。

 そして、微笑む理由は、モナリザは誰かという謎に直結する。著者はザッペリの説を支持する。レオナルドはフランス軍にミラノが占領されるとフィレンツェに戻り、メディチ家のロレンツォの3男ジュリアーノに仕えた。ジュリアーノはウルビーノで恋をし庶子イッポーリト(枢機卿)が生まれたが、母・パチフィカ・ブランダーニは死んだ。不在の母を恋しがる幼子のために、ジュリアーノはレオナルドに亡くなった彼女の肖像画の制作を依頼した。だからモナリザは喪服姿で、微笑む相手はわが子のイッポーリトだったという訳だ。モナリザには、生まれてすぐ実の母親と離れ離れになったレオナルドの心象も投影されているのだろう。人の世を醒(さ)めた目で見つめる科学者でもあったレオナルドは、「立派に費やされた一生は快い死をもたらす」という言葉を残した。

 ◇さいとう・やすひろ=1946年、福島県生まれ。京都大名誉教授。著書に『レオナルド・ダ・ヴィンチの謎』。

 中公新書 1000円

読売新聞
2017年5月14日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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