<東北の本棚>国の帰還優先策を批判
[レビュアー] 河北新報
福島第1原発事故を体験した南相馬市の精神科医、病院経営者である著者が、国の原発政策や東京電力の対応、とりわけ現在進行している帰還優先策を厳しく批判している。帰還するかしないか、どちらにしても必要なのは経済支援の将来的担保。それがなければ「棄民への道を行く以外にあり得ない」と断ずる。
病院が避難指示の対象になったのは、東日本大震災、原発事故発生の翌日夕だった。1週間かかって104人の入院患者を福島市、福島県南会津町、東京都などに無事避難させることができた。しかし、病院は休止せざるを得なかった。
被災者の中に、次第に「若すぎる死」を迎えた人、「驚いた死」で終えた人の話を聞くようになった。4年半後、自らもがんの診断を受けた。
避難指示の際に年間被ばく線量20ミリシーベルト超と設定したのは何だったのか。それは緊急時の目安であって、それ以下が「安全だ」などとは誰も言っていない。マスコミは「風評被害」と報道するが、生産者にとっては物が売れないのだから「実害」だ。一度だけの除染でどれほど放射線量が下がるのか。「除染はした」というアリバイ工作ではないのか。被災者の補償を、そもそも加害者が行っているところに矛盾がある。
原子力損害賠償法には、事業者(電力会社)に対する免責条項がある。国の責任も間接的。ではこの重大事故の責任者は一体誰なのか。原発をやめ、再生可能エネルギーの開発へかじを取るべきだと訴える。
著者は1942年福島市生まれ。東北大医学部卒。原発事故後の3月末から仙台市に避難している。
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