日本の原風景!『全国版 あの日のエロ本自販機探訪問記』

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全国版 あの日のエロ本自販機探訪記

『全国版 あの日のエロ本自販機探訪記』

著者
黒沢哲哉 [著]
出版社
双葉社
ISBN
9784575312256
発売日
2017/04/19
価格
2,420円(税込)

昭和末期の日本の原風景 「エロ文化遺産」アーカイブ

[レビュアー] 都築響一(編集者)

「よくできた本」は好きだが、「よくやった本」のほうがずっと好きだ。『全国版 あの日のエロ本自販機探訪記』は、そういう「よくぞやっていただいた!」一冊で、フリーライターの黒沢哲哉さんが北海道から九州まで、「日本全土ほぼすべてのエロ本自販機」を記録した、途方もないエロ文化遺産アーカイブである。

 エロ本自販機が登場したのは1975~76年ごろ。80年代以降もオトナのオモチャや、書店から返品された「ゾッキ本」など、中身を変えながら自販機はしぶとく生き延び、「免許証スキャンや遠隔操作の監視カメラで未成年の購入を防ぐ」など先端技術も導入しながら、当局の厳しい弾圧を受け続け、数を減らし続け、「10年後には一台も残っていないだろう」(業者談)という絶滅危惧文化であり「書籍流通の最果て」だ。

 自販機で売られている商品の移り変わりもそうだし、単体の自販機から現在あるような「小屋式」になるプロセスも、自販機を運営し、商品を補充し、機械を管理する延命医のような人々へのインタビューも、すべてが丹念なフィールドワークから生まれた貴重な資料だし、ネットの掲示板からGoogleストリートビューまでを駆使して現存する自販機を探していく、その作業自体すら日本全国の田舎道を巡るトラベローグとして読めてしまう。

 数年前に僕も都内のエロ本自販機を撮影しようとして、探すのにずいぶん苦労した。それは日本からエロ本がなくなったからではなくて、自販機で買う必要がなくなったからにすぎない。有害図書が県道沿いの小屋の中ではなく、電子空間の中に収納されるようになっただけの違いにすぎない。

 そうやって役目を終えたエロ本自販機は、あきらかに昭和末期の日本の原風景のひとつだったはずだが、黒沢さんがこんなふうにアーカイブしてくれるまで、僕らはその喪失感さえ意識しないままだった。

新潮社 週刊新潮
2017年5月25日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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