映像作品や漫画、現実の出来事も候補とする広量〈トヨザキ社長のヤツザキ文学賞〉

レビュー

8
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

Wombs 1

『Wombs 1』

著者
白井 弓子 [著]
出版社
小学館
ISBN
9784091884947
価格
700円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

映像作品や漫画、現実の出来事も候補とする広量

[レビュアー] 豊崎由美(書評家・ライター)

 さて、質問です。井上ひさし『吉里吉里人』庵野秀明『新世紀エヴァンゲリオン』古川日出男『アラビアの夜の種族』萩尾望都『バルバラ異界』森見登美彦『ペンギン・ハイウェイ』。この五作品に授与された文学賞とはナニ?

 答えは日本SF大賞です。一九八〇年、日本SF作家クラブ(何かと内輪もめ的問題が起きる団体なので、下世話な興味がある方はググッてみて下さい)が創設。九月一日から翌年八月三十一日までの一年間に発表された作品の中から、五作品程度の候補作を選び、二月末、日本SF作家クラブの総会で選ばれた選考委員(現在は日下三蔵、高野史緒、飛浩隆、長谷敏司、牧眞司の五名)による討議を経て受賞作が決定いたします。

 ユニークなのは、二〇一三年からは広く一般からも候補作のエントリーを受けつけるようになった選考対象が、小説に限らないという点です。「このあとからは、これがなかった以前の世界が想像できない」「SFの歴史に新たな側面を付け加えた作品」に注目。映像作品や漫画はもちろん、これまで受賞にこそ至っていませんが、現実に起きた出来事や画期的な新商品まで視野に入れている度量の広さは、直木賞のようなメジャーな文学賞から一顧だにされないという狭量にさらされてきたジャンルだからこそと思えなくもありません。

 最新の第三十七回大賞受賞作も小説作品にあらず。白井弓子の漫画『WOMBS』です。川上弘美『大きな鳥にさらわれないよう』、大ヒット映画『君の名は。』や『シン・ゴジラ』といった強力なライバルを振り切って受賞しただけあって、全五巻からなる物語は大変読みごたえがあります。

 舞台は第二次移民によって侵略されかかっている惑星。斬新なのは、第一次移民側の女性兵士の設定です。原生生物の体組織を子宮に移植することで空間転送の異能を身につけたという妊婦そのものの外見が、戦争のような陰惨な現場とまったくそぐわず、その違和感によって、さまざまな感情や思考を読み手から引き出すんです。受賞作でなければ未知のままだった作品。出会わせてくれた日本SF大賞に感謝します。

新潮社 週刊新潮
2017年5月25日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • このエントリーをはてなブックマークに追加