夜明けに、ミステリー――『神の手廻しオルガン』著者新刊エッセイ 須田狗一

エッセイ

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神の手廻しオルガン = Barrel Organ of God

『神の手廻しオルガン = Barrel Organ of God』

著者
須田, 狗一, 1953-
出版社
光文社
ISBN
9784334911690
価格
2,090円(税込)

書籍情報:openBD

夜明けに、ミステリー――『神の手廻しオルガン』著者新刊エッセイ 須田狗一

[レビュアー] 須田狗一(作家)

毎朝、四時か五時頃にそっとベッドを抜け出し、ダイニングテーブルにノートパソコンを持ち出して作品を書きます。朝食の準備は私の分担になっているので、六時半になるとパソコンを閉じなくてはなりません。これは、三十年間のシステムズエンジニア時代にできた習慣です。深夜になり疲れ切って仕事が進まなくなると、あっさり帰宅して寝ることにしていました。そして、早朝にむくっと起きて自宅のパソコンで仕事の続きをするわけです。この作品の最後の最後に、主人公の吉村が明け方に起き出し、メールを書く場面がありますが、あれは私自身のいつもの姿です。

 明け方というのは感性が研ぎ澄まされる時間です。キーボードをたたいていると、登場人物を襲うあまりに過酷な運命に、どうしてこんなことになったのだろうと涙がにじんでくることもあります。理由は明白なのですが……。私がその過酷な運命とやらを思いついたからです。ついつい六時半を過ぎてしまうことも多いので、六時くらいからは、あと二十分、あと五分と時計を睨みながら文字を打ちます。そんなふうに書き進み、いよいよ作品の最終章にかかると、いつも私は憂鬱になります。作品を書くという時間が終わってしまう喪失感と、今書いているこの作品よりいい作品を書くのはもう無理なんじゃないかという不安が憂鬱の原因です。

 ですから、島田先生はじめ福ミスの選考委員の方や光文社の編集者の方からここを修正したほうがいいよとコメントをいただくと、編集者の方には内緒ですが、実は少しうれしくなります。作品を書く「あの時間」にまた戻れるのですから。ストーリーに変更を加えると、あちらこちらに矛盾が生じ、登場人物の性格に変更を加えることもしばしばです。そのたびに、私が知らなかった登場人物の陰の性格が、陰の人生が浮かび上がってきて、私を驚かせてくれます。

 夜明けに書かれたこの作品、著者の私が言うのも何ですが、よくできた作品です。ぜひ、ご一読ください。

光文社 小説宝石
2017年6月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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