高杉良・インタビュー いつも腹を空かせて、走り回っていた〈『めぐみ園の夏』刊行記念〉

インタビュー

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めぐみ園の夏

『めぐみ園の夏』

著者
高杉 良 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784104547067
発売日
2017/05/22
価格
1,650円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

【『めぐみ園の夏』刊行記念インタビュー】高杉良/いつも腹を空かせて、走り回っていた

■「めぐみ園」があったから今がある

――昭和二十五年といえば、朝鮮動乱が起きた年です。緊迫した時代ですが、「めぐみ園」での生活は、どのようなものでしたか。

 いつも走り回っていた。いつも腹を空かせていた。切ない、辛い、厳しい生活でした。学校では差別され、悪ガキに「残飯野郎」などといじめられる。だから、僕以外の園児たちは園と学校を往復するだけで、外に出て行かないし、学校で友達も作らないんです。僕は平気で、学校の友達の家にも遊びに行った。施設の子だからといって、いじけなかった。

――亮平君がボクシングで悪ガキをやっつける場面も痛快でした。

「めぐみ園」はキリスト教系だったこともあって、米軍キャンプと縁があったんです。それで、ボクシングのグローブが手に入って、園でボクシングを経験していた。だから悪ガキに勝てたんです。自分は強運だと、いつも思いますよ。

――その悪ガキとも友達になって、勉強を教えてあげる関係になります。厳しい境遇や時代の激動にもかかわらず、希望を感じさせる明るい空気が作品全体を包んでいます。

 やさしい人たちに恵まれたんですね。保母さんや園の作業員、学校の教師も、みんな親身になってくれた。肺炎に罹った時は、園に付随する診療所の医師が、当時貴重だったペニシリンを、園長の反対を押し切って使ってくれて、一命を取り留めたこともありました。

――小説の中には書かれていませんが、「めぐみ園」のモデルになった施設は、実は今から二十年ほど前に、児童虐待が発覚し、新聞や国会でも取り上げられる大きな事件になっています。

 園の経営者母子に問題があることは、この小説の中でも書きました。事件への伏線というか、さもありなんでしょう。いろいろなことがありましたが、めぐみ園の生活があったから今日の自分がある、あの頃の経験が糧になっているという思いはあります。これ以上厳しい生活はないわけだから、それを乗り越えたことが自信になり、心の支えになっています。

――それで本の帯にあるように「めぐみ園がなかったら、作家になっていなかったかもしれない」と。

 この小説を書いていると元気が出る。時には泣きながら書いたり、作中に出てくる唱歌を歌って気分転換したりもしましたが、何よりも元気が出る。読者にも、その元気を伝えられる作品になっていると思います。

――「めぐみ園」を出た後の亮平が気になります。

 続編は、可能性はあるとだけ言っておきましょう。もちろん、経済小説、企業小説も書いていきます。後期高齢者がこんなに仕事をしていいのかと思うけど(笑)。

新潮社 波
2017年6月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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