『POWERS OF TWO 二人で一人の天才』 ジョシュア・ウルフ・シェンク著

レビュー

2
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

POWERS OF TWO二人で一人の天才

『POWERS OF TWO二人で一人の天才』

出版社
英治出版
ISBN
9784862762054
発売日
2017/04/14
価格
2,484円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『POWERS OF TWO 二人で一人の天才』 ジョシュア・ウルフ・シェンク著

[レビュアー] 朝井リョウ(作家)

1+1が世界を変えた

 孤高の天才。私は、この言葉に大きな憧れを抱く。その人しか宿らない唯一無二の創造性、理解し合える者のいない孤独――天才と呼ばれる人にはそれらしい物語を期待してしまうが、この本はそんな無責任な願望を丁寧に解体し、『優れたクリエイティビティやイノベーションの裏には、実は二人の人間(本文中の言葉でいう“クリエイティブ・ペア”)がいる』という新たな説を提示してくれる。

 著者は、あらゆる分野に存在するクリエイティブ・ペアの関係性の変遷を、邂逅(かいこう)、融合、弁証、距離、絶頂、中断という六つのステップに分けて解説する。登場するのは、世界的企業であるアップルの創業者、スティーブ・ジョブズとスティーブ・ウォズニアック。ビートルズの創作の根幹を担った、ジョン・レノンとポール・マッカートニー。世界的ベストセラー作家、C・S・ルイスとJ・R・R・トールキンなど様々だ。1+1が無限大に成り得る出会いを果たした彼らは、ゆえに訪れる混乱や悲劇に見舞われながらも一人では決して達成できなかっただろう偉業を成し遂げていく。刺激的なエピソードの数々に、頁(ページ)を捲(めく)る手は止まらない。

 特に印象的なのは、最後のステップである“中断”だ。言葉の印象とは裏腹に、彼らの精神的な結びつきは良くも悪くも断たれることがない。人や社会と繋(つな)がることで得られる喜びも不幸も、まとめて抱きしめたくなる読後感だ。

 論点が少しずれるかもしれないが、過労死や育児ノイローゼによる虐待などの報道に触れると、私たちは誰かに助けを求めることや他者と手を組むことに対しどんどん後ろめたさを感じるようになっている気がする。自己責任という言葉を耳にする機会が増えた今こそ、自分以外の誰かを頼り頼られ支え合えることができれば、本書に出てくるペアのように世界を変えることはなくとも目の前の明日を生き抜くきっかけを得られるのかもしれない。矢羽野薫訳。

 ◇Joshua Wolf Shenk=米ロサンゼルス在住のキュレーター、作家。ネバダ大国際文芸センター長。

 英治出版 2300円

読売新聞
2017年5月21日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加