『現金の呪い 紙幣をいつ廃止するか?』 ケネス・S・ロゴフ著

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現金の呪いーー紙幣をいつ廃止するか

『現金の呪いーー紙幣をいつ廃止するか』

著者
ケネス・S・ロゴフ [著]/村井 章子 [訳]
出版社
日経BP
ジャンル
社会科学/経済・財政・統計
ISBN
9784822255077
発売日
2017/04/07
価格
3,024円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『現金の呪い 紙幣をいつ廃止するか?』 ケネス・S・ロゴフ著

[レビュアー] 柳川範之(経済学者・東京大学教授)

骨太なマクロ経済分析

 なかなか、おどろおどろしいタイトルである。心霊現象の類いかと思いきや中は、かなり真面目な検討がされている。それもそのはず、著者はチェスの名人としても知られる著名な経済学者。『国家は破綻する』というベストセラーも書いている。

 そもそも世の中に紙幣があるから、問題が起きるのではないか。だったら、まずは高額紙幣からなくして、だんだんと世の中からお金をなくしたら良いのでは、と読者に対して疑問を投げかける。

 なぜ紙幣が問題を起こすのか。実は、犯罪行為や地下経済での経済取引は、現金が重要な役割を占める。それは、現金は受け渡しの現場に立ち会いでもしない限り、誰から誰に渡されたのかが極めて把握しにくい、つまり足がつきにくい資産だからだ。よって、高額紙幣を廃止していくことができるならば、地下経済での経済取引を大幅に制約することができ、健全な経済活動を促進することになるのではないか。これが一つ目のポイントだ。

 もう一つのポイントは、マイナス金利政策の実効性を高めるための、紙幣廃止戦略だ。日本では、様々な意見もあるマイナス金利政策だが、政策の一つのオプションとして、できるだけ実効性があるに越したことはない。

 しかし、現金の金利はゼロだから、預金金利がマイナスになると、現金でのタンス預金を皆選んでしまうだろう。紙幣がなくなれば、それが不可能になり、マイナス金利政策の効果が高まるのではという論理だ。

 中で展開されている議論は、現金という視点からみた、マクロ経済分析。かなり骨太な分析がなされているので、マクロ経済政策に関心のある方には、読み応えのある本になっている。

 仮想通貨の議論もされているし、巻末に収録されている齊藤誠・一橋大学教授による日本語解説も併せて読みたい。村井章子訳。

 ◇KENNETH S.ROGOFF=1953年生まれ。国際通貨基金のチーフエコノミストなどを経てハーバード大教授。

 日経BP社 2800円

読売新聞
2017年5月21日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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