『「イタコ」の誕生』 大道晴香著

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「イタコ」の誕生

『「イタコ」の誕生』

著者
大道晴香 [著]
出版社
弘文堂
ISBN
9784335160868
発売日
2017/03/01
価格
4,860円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『「イタコ」の誕生』 大道晴香著

[レビュアー] 土方正志(出版社「荒蝦夷」代表)

地域の信仰から観光へ

 青森県は恐山と聞いてイタコを連想する人は多いだろう。死者の霊を降ろして、その言葉を語る「口寄せ」で知られる盲目の巫女(みこ)……そんなところが一般的なイメージか。実は東北にはさまざまに呼称を変えてイタコ的な民間宗教者が存在する。が、なんといっても世に知られるのは恐山のイタコなのだが、それではいかにしてイタコはかくもメジャーな存在となったのか、それをまるで良質なミステリのようにスリリングかつ丁寧に謎解くのが「マスメディアと宗教文化」を副題とする本書である。

 イタコが恐山の大祭に集まり始めたのは大正から昭和初め、続く太平洋戦争の大量死を背景に隆盛を迎える。その存在がアカデミズムに知られ、交通機関の発達によって観光化が始まる。やがてマスメディアが注目、戦後の秘境ブームに「ディスカバー・ジャパン」にオカルト・ブームと観光客がどっと押し寄せ、関係自治体も観光業者も大わらわとなる。この勢いに、地域の信仰は変容を迫られ、イタコのイメージはメディアによって拡散、大衆文化の定型のひとつとなり、地域文化から脱却していく。

 そんなイタコをめぐる現代史を新聞、雑誌、観光ガイドからコミックまで、豊富な資料とフィールドワークを駆使して、いやはや読み応え満点である。観光化したとはいえ、東日本大震災の犠牲者の遺族が口寄せを希望する姿も本書にはある。地域文化としての信仰の面影がいまだ底流に残って、東北に暮らす者としては、どこかほっとする。

 学術書ではあるが、イタコと恐山への、地域へのまなざしが、とにかくやさしくあたたかい。あとがきに、著者は青森生まれ、高祖母がやはり民間宗教者で、本書には「自己探求の意味合い」もあったと知ってナットクである。地域にとって、文化とは、信仰とはなにか。観光を通じた地域おこしに関わる人たち、あるいは恐山を旅したいと思っている人たちにもおススメの一冊だ。

 ◇おおみち・はるか=1985年青森県生まれ。国学院大大学院特別研究員。専門は宗教学。

 弘文堂 4500円

読売新聞
2017年5月21日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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