<東北の本棚>挿絵に込めた秘密読解

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<東北の本棚>挿絵に込めた秘密読解

[レビュアー] 河北新報

 サン=テグジュペリは「星の王子さま」にどんなメッセージを込めたのか。著者は物語の27章全てに簡潔なタイトルを付け、1章ずつ丁寧に読み解いていく。
 特に注目されるのは、文章と絵が一体であるとの視点だ。挿絵は専門の画家ではなく、テグジュペリが自ら描いた。話を説明するだけではなく、言葉では表現しきれないものを伝える手段だと著者は捉える。
 そしてテグジュペリの境遇や聖書、共通点の多い宮崎駿監督の「ジブリ作品」をヒントに、絵や物語に込められたメッセージの秘密を一つずつ明らかにする。
 テグジュペリは第2次世界大戦にフランス軍のパイロットとして従軍、ドイツに敗れ、米国に亡命した。星の王子さまを書いた後に戦争に復帰、戦死する。作品を献呈した友人のレオン・ウェルトはユダヤ人で、ナチスに迫害されていた。
 王子さまの服がフランス国旗と同じ3色であること、トルコの独裁者がヒトラーを思わせること、作品のポイントである砂漠の井戸は今は会えない友人や家族の思い出を象徴すること…。友人や子どもたちを救い、祖国を回復させたいとの思いが作品を生んだことを示す。
 今も多くの謎が残る作品に、新たな視点で迫った力作と言えるだろう。著者は1949年東京生まれで弘前市在住。東北女子大教授。
 サイゾー03(5784)0791=1512円。

河北新報
2017年5月28日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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