<東北の本棚>漆黒の闇にすむものは

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山怪 : 山人が語る不思議な話 2

『山怪 : 山人が語る不思議な話 2』

著者
田中, 康弘
出版社
山と溪谷社
ISBN
9784635320085
価格
1,320円(税込)

書籍情報:openBD

<東北の本棚>漆黒の闇にすむものは

[レビュアー] 河北新報

 捉えどころのない説話の中から深い闇をのぞくような静かな恐怖が伝わってくる。猟師や山岳ガイドら、日本各地の山で働き暮らす人々の不思議な体験を聞き書きしてまとめた第2弾だ。
 仙北市で猟をする男性は25年ほど前、後輩から夢の相談を受けた。よく知る林道の退避スペースに1台の車があり、中に男女2人が横たわっている。情景が実にリアルで、毎晩同じ夢を見るという。後輩と林道へ向かった男性は退避スペースを見て驚いた。後輩が夢で見た通りの車が止まっていて、車内では見知らぬ男女が死んでいた。
 八甲田山ろくにある宿泊施設の従業員は、毎晩のように複数の歩兵が館内を歩き回るのを見た。施設は199人の死者が出た旧陸軍の八甲田山雪中行軍遭難に関する資料を多数展示していた。資料を全て廃棄して以降、歩兵たちの姿は消えたという。
 長野県白馬村の山岳ガイドの男性も奇怪な体験を語る。仲間数人と後立山連峰の避難小屋で寝ていると足音が近づき、小屋の横を通り過ぎる。再び足音がするが、外には誰もいない。さらに、屋根を打つ激しい雨音。空には星が輝いていた。山男たちは恐怖に震えながら夜明けを待った。
 青白い火の玉が舞う山里、座敷わらしが現れる宿…。科学では説明できない不可解な出来事の数々。街の生活に慣れた現代人ほど山の静けさ、漆黒の闇にたじろぐ。時には吹き抜ける風、かすかな葉擦れの音さえも不安と恐れをかき立てるに違いない。
 著者は1959年長崎県生まれのフリーのカメラマン。マタギらに関する取材が多い。2015年出版の第1弾「山怪」は8万6000部を売るヒットとなった。
 山と渓谷社03(6837)5018=1296円。

河北新報
2017年5月28日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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