『約束』
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二つの人気シリーズが交錯する ハードボイルドの王道作品
[レビュアー] 香山二三郎(コラムニスト)
ロサンゼルス市警の刑事とその相棒の活躍を描いたシリーズ第二弾。といっても、主人公スコット・ジェイムズ巡査の所属は警察犬隊、相棒のマギーは人間ではなく警察犬――メスのジャーマン・シェパードだ。
警察小説でハンドラー(指導手)と警察犬の相棒ものは別段珍しくないが、このコンビは特別な事情を抱えている。第一作『容疑者』は、互いにそれまでの相棒を失い傷心のスコットとマギーが新たなパートナーを組んで事件に取り組んだ。とりわけ犬視点で描かれるマギーの健気な姿は愛猫家の心をも動かしたといわれる。前作を読まれた人にとって、本書は待望の続篇といえよう。
冒頭で描かれるのは、犯罪者一味と怪しい男女による爆発物らしきものの取引場面。やがてその現場の家へ一味の連絡係の男が現れるが、彼は警察に追われる身だった。かくしてスコットたちもその家に捜査に訪れるのだが、そこにもうひとり、男が現れる。それがエルヴィス・コールという私立探偵だ。
コールはある女性の依頼を受け、失踪した同僚――エイミー・ブレスリンの捜索を始めていた。エイミーは一年四カ月前にナイジェリアで起きたテロで息子のジェイコブを失っており、それ以来すっかり人が変わってしまったという。コールはジェイコブの幼馴染の住まいを訪ねてみるが、そこは図らずも問題の取引現場で、しかも大量の爆発物が残っていたことから、警察の容疑を受ける羽目になる。
物語前半はそのコールの捜索劇を軸に動いていくが、初めて著者の作品に触れる方のためにいっておくと、エルヴィス・コールは著者の作品を代表するシリーズ・キャラクターであり、本書は彼を主人公にした長篇第一六作でもある。つまり今回は、スコット&マギーとエルヴィス・コールの競演作なのだ。
コールとその仲間たちはエイミー母子の悲劇に共感して、彼女を窮状から何とか救おうとする。その侠気(きょうき)はハードボイルドの王道をいくものであり、コール・シリーズならではの持ち味でもある。このシリーズの日本での再評価を期待したい。
一方スコット&マギーのほうも、スコットが黒幕の顔を見てしまったことから命を狙われ、さらには職を奪われる事態にまで追い込まれていく。むろんマギーの見せ場もちゃんと用意されていて、隙はない。
一冊で二大キャラが堪能出来る快作。クレイス作品を未読の方にこそお奨めの一冊だ。