『このミス』大賞は優秀作にも大注目! 『縁見屋の娘』ほか

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『このミス』大賞は優秀作にも大注目!

[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)

 2002年にスタートした『このミステリーがすごい!』大賞は、東山彰良、海堂尊、柚月裕子、中山七里など、数々の人気作家を輩出してきた新人賞。昨年の大賞を射止めた岩木一麻の医療本格ミステリー『がん消滅の罠 完全寛解の謎』は、今年1月に単行本で発売されるや、たちまち16万部を突破するベストセラーとなったが、それと同じ回に応募されてともに優秀賞を受賞した2作が、この春、文庫オリジナルで同時刊行されている。

 三好昌子京の縁結び 縁見屋(えんみや)の娘』は、江戸時代(天明年間)の京都が舞台。題名の縁見屋は、四条堀川に店を構える老舗の口入れ屋。この店に生まれた主人公のお輪は18歳。母も祖母も曾祖母も、男児を産むことなく26歳で死んだため、「縁見屋の娘は祟りつき」と噂されている。縁見屋は本当に呪われているのか? だとしたら、その呪いはどうしたら祓えるのか? やがて、縁見屋ゆかりの地蔵堂から、一枚の不思議な白い紙が見つかる。それは、初代の縁見屋を導き助けてくれたという“天狗の秘図面”だった……。口入れ屋の日常を細やかに描く人情噺と、伝奇小説的(時代ファンタジー的)なスペクタクルを融合させたユニークな時代小説。

 対する柏木伸介県警外事課 クルス機関』は、現代的なスパイ警察小説。神奈川県警外事課の警部補・来栖惟臣(くるすこれおみ)(歩く諜報組織と呼ばれ、クルス機関の異名をとる)と、北朝鮮の凄腕工作員・呉宗(オ・ジョン)秀(ス)がダブルで主人公をつとめる。硬派一辺倒かと思いきや、強烈なキャラの女子高生が登場して雰囲気が一変したり、硬軟・緩急の使い分けもうまく、ぐいぐい読ませる。

 最後の1冊、大津光央サブマリンによろしく』は、前回(第14回)の『このミス』大賞優秀賞を受賞した『たまらなくグッドバイ』の改題・文庫化。こちらは、28年前に八百長疑惑の渦中で自殺した伝説のプロ野球選手(アンダースロー投手)をめぐる野球ミステリー。元スポーツ紙の記者だった芹澤は、彼の伝記を書くため、関係者を取材しはじめるが……。

新潮社 週刊新潮
2017年6月1日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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