イワシ、ワイン、イケメン! 映画のように素敵な「イタリア田舎美食」20編

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皿の中に、イタリア

『皿の中に、イタリア』

著者
内田 洋子 [著]
出版社
講談社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784062935050
発売日
2016/10/14
価格
778円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

イワシ、ワイン、イケメン! 映画のように素敵な「イタリア田舎美食」20編

[レビュアー] 黒田順子(放送作家、ライター)

読み始めてすぐに「いい本、見っけ!」と心の中で叫びました。失礼ながら、想像以上に面白いのです。実在する登場人物と著者とのやり取りが。

ことの発端は、イタリア在住の著者が、ある書き物をまとめるために、カラブリア州出身者を探すところから始まります。カラブリアは、イタリア地図のつま先部分に位置し、「イタリア人ですら知らない」地域。

ようやく見つけたカラブリア3兄弟は、天井のないミラノの青空市場で、レストラン向けの魚を卸している魚屋でした。早速、真冬の早朝から彼らに会いに行く著者。しかし彼らは、ろくに挨拶もせず、目すらも合わせない無愛想な男たちなのです。

なんとか彼らに取り入ろうと思った著者は、荷下ろしを手伝ったあと、大量の魚を買うという手に出ます。アサリ、鯛、イワシ、鮭の切り身、シャコ、エビ。すべてキロ単位で!! すると、長兄がむすっとした顔のまま、イイダコを1箱差し出し、「朝早くから寒い中、手伝ってくれてありがとう」と言うのです。

それからというもの、毎週金曜日の早朝に魚を買いに行く著者。

2回目は、4キロ半のカサゴ。3回目はロブスター。4回目はイワシ2キロ分。次は、3キロはある真鯛といった具合で、毎週金曜日は、様々な人たちを自宅に招いて魚の日となるのでした。

この滑り出しに、まるで映画を見ているみたい! と思い、本当にこんなイタリア人、いるの!? と思ってしまいました。

実は私は、仕事も含め3回、イタリアに行ったことがあるのですが、私の知るイタリア人は、「君の日本の住所を書いて。会いに行くから」と、2日続けて同じ店に行っただけなのにナンパしてきます。

ワイナリーでは、摘みたてのブドウをトラックの荷台から桶に移すとき、地面に思いっきり溢れさせ「アイヤイヤー!」と叫んでいました。
「いや、そりゃ、どう見たって入り切らんだろ」とわかるのに。
しかし1時間後、同じところを通ったら、さらにブドウを溢れさせ、「アイヤイヤー!」と叫んでいるのです。

そんな陽気で愉快なイタリア人とは対照的に、ここに出てくる人たちは、陰があり、一筋縄ではいかない人ばかり。でもそれが、なんとも深い味わいとなって、人の温かみを感じるのです。

たとえば、紛争勃発地域の最前線に出かけて行く50代女性記者と、ひからびた空豆の話。
冬は撮影がないため、ふさぎ込んでいる海洋生物専門の女性カメラマンと2キロのイワシの話。
長年、娘を故郷に置いたままミラノのバールで働く女性と、彼女が作る各地のマンマの味を求める人々。
年老いた母親が、毎朝、嫁がいる3兄弟にパニーニを焼いて届ける話。
超肥満体のお洒落な中年妻が、全く色気のない女友達に夫を寝取られ、ヤケ食いをする話など、どの話の中にもイタリアで暮らす人々と料理の話が出てきて、とにかく飽きさせないのです。

この本を読み終えたとき感じたのは、豊かな時間を一緒に過ごしたという充実感でした。それはまるで、自分がその場に立ち会っているような気分にさせてくれるからです。
そして、さりげなく見える文章もとても素敵なのです。

「たとえ顔見知りになっても、会えば通り一遍の挨拶を交わす程度で、懐を開くような気配は一向になかった」リグリア州(北西部の海に面した州)に住んでいた著者が、毎日通うバールで思わずつまみのオリーブを褒めたときの描写は、「話し相手がなく、余っていた言葉が勝手に滑り落ちたのだ」といった具合です。

使い方を間違ったら、キザにしかならない言葉がとても心地よくて、凄いなぁと思っていたら、著者の内田洋子氏は、日本エッセイスト・クラブ賞、講談社エッセイ賞を受賞された方だと知り、納得。

さらに、どの組織に所属せず、独自に集めたイタリア情報を日本のマスコミに届ける通信社を作った方で、40年近くもイタリアに住んでいらっしゃるカッコいい女性だということもわかりました。

ミラノなどの都市に限らず、かなりのド田舎だったり、古い木造帆船で洋上生活をしたりと、イタリア各地の様子がわかるのも面白いです。イタリア旅行は無理でも、ワイン片手に旅気分を味わいたい方には、ピッタリの本だと思います。

・『皿の中に、イタリア』特設ページはこちら⇒http://shousetsu-gendai.kodansha.co.jp/books/20.html

講談社
2017年6月5日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

講談社

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