これからの時代に求められる「ファシリテーション」思考とは?

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これからの時代に求められる「ファシリテーション」思考とは?

[レビュアー] 印南敦史

インターネットやSNSが発達し、誰もが地球上の誰とでもコミュニケーションをとれる状況でありながら、「先が見えない」という不安を持つ人が少なくありません。同じ日本語を話し、話し方やプレゼンテーションに気を使って話しているにもかかわらず、「伝わらない」と感じる人も多いことでしょう。

いくら情報量が豊富でも、人間の頭には限界があるもの。どれだけSNSが発達しても、ひとりの人間が本当にわかり合える関係を持てる人にも限りがあります。ところが発達したテクノロジーは容赦なく大量の情報を流し込んでくるわけですから、自分の立ち位置を見失ってしまったとしても無理はありません。

だからこそ「ファシリテーション」が重要なのだと主張するのは、『【ポイント図鑑】人を動かすファシリテーション思考』(草地 真著、ぱる出版)の著者。

ファシリテーションは、人と人が話し合い、わかり合うための方法です。それは「いま・ここ」で出会った人と人が「いま・ここ」で感じることを口に出し、シェアし、合意点を見出して行く手法として、まさに人と人との関係をつなぎ直す、結び直す時間と場所を提供してくれます。同時に、ダイバーシティ(多様性)社会の中で、どんな経歴や価値観をもつ人とでも、ひと時のコミュニケーションを築いていく上での有効な方法を提供してくれます。(「まえがき」より)

そんなファシリテーション思考の基本を、パート1「なぜ、ファシリテーション思考が求められているのか」のなかから抜き出してみたいと思います。

ファシリテーションの3つの特徴

「ファシリテーション」とは、facilitate(促進する、助長する、ことを容易にする、楽にする)という英語の名詞形。1960年代のアメリカで生まれたもので、さまざまな問題について話し合う際、参加メンバーの意見や思いを引き出し、課題を浮き彫りにして共有したうえで、解決の方向を見出す方法だそうです。

それは同時に、参加メンバー各自の気づきや成長、メンバーの納得および共有の手法として、ビジネス研修や会議の場面においても応用されてきたわけです。なお、ファシリテーションの特徴は次の3つに集約されるといいます。

1. 対等な関係のメンバーによる主体的な参画…ファシリテーションを行う間は、組織役割や組織を忘れて対等な立場で、かつ参加者全員が主体的に取り組みます。

2. ファシリテーターの中立性…中身には関与せず、プロセスを導く「ファシリテーター」が、話し合いをリードしていきます。

3. プロセスの共有による納得と当事者意識…参加メンバーが心から納得し、ベクトルを共有することで、メンバー各自が当事者意識をもった強いアクションが生まれます。(18ページより)

ファシリテーションが必要な場面がどんどん増えている!?

ファシリテーションと聞いてイメージしやすいのは、会議を上手に取り仕切って参加者の意見を引き出していく場面。たとえば東日本大震災のときには、「話し合いファシリテーション」という形で、被災地支援において大きな役割を果たしたのだそうです。

未曾有の大震災が、津波や原発事故と連動し、被災地を大混乱に陥れたのは記憶に新しいところ。その混乱は、建物の崩壊や物資の不足への対応から、支援物資の最適配分、ボランティアと支援の仕事のマッチング、そして被災地域の復興に向けた地域住民の合意形成などの必要性へとつながっていきました。

そうした状況下に大きな役割を果たしたのが、専門のファシリテーターたちによる避難所や地域住民の「話し合いのお手伝い」だったというのです。具体的には、ホワイトボードに貼った模造紙に、ポストイットと水性マーカーを使ってみんなの意見や思いを書き出す。そうすることで必要事項を可視化し、その時々の最適な結論を引き出してみせたということです。

たとえば震災直後の切迫した避難所での「地区別被災状況の把握」や「ボランティアの支援のマッチング」、被災地復興に向けて「現状地区を離れるか残るか」といった住民同士の緊張した話し合いの場面に至るまで、「いま必要なこと」をわかりやすくまとめ、適切な手段や方法論を導き出したというわけです。(20ページより)

なぜ人材教育にファシリテーションが有効なのか

1996年に日本に上陸し、いまや全国に1000店舗以上を展開しているスターバックス。コーヒーの味だけではなく、独特なインテリアやBGM、どんなときにも最高の笑顔と対応をしてくれるスタッフによって提供される「サード・プレイス」(自宅と学校・職場に次ぐ第3の場所)として、短期間で日本人のライフスタイルにすっかり定着しました。

そんなスターバックスの育成も、基本的に「ファシリテーション」の考え方と手法によって行われているのだとか。

「いままででいちばん気持ちが良かった接客は?」
「さっきのお客様、ニコニコしていたね。どんなことがあったの?」
「ミスしてしまったとき、お客様はどう思ったかな? 他のスタッフの気持ちはどうだったと思う?」

学生を中心としたアルバイトのスタッフは、こうした問いかけによって「スターバックスで働くことの意味」を自分の問題として、自分の頭で考えていくようになるというわけです。

これが、スターバックスのサービスの根っこにある「ファシリテーション」だということ。(22ページより)

企業改革にファシリテーションが欠かせない

ご存知のとおり、日産自動車のV字回復を実現したのは、フランスのルノーから乗り込んできたカルロス・ゴーン氏。「コストカッター」の異名を持ちながらも、わずかの期間で業績をV字回復させ、日産が陥っていた各種の「大企業病」を改革したわけです。

しかし、そんな日産の劇的なV字回復の裏においても「ファシリテーション」が大きな役割を果たしていたのだと著者はいいます。日産では、単なる経費削減や経営構造改革だけでなく、むしろそのベースにある意思決定のプロセスややり方を大きく変えたというのです。

それは「V-up」プログラムと呼ばれ、「日産の会議」改革として具体化されたもの。そこでは組織横断型のクロスファンクショナルなメンバーにより、「課題定義書」「系統図」「親和図」「ペイオフ・マトリクス」といったファシリテーションの基本的な手法が用いられたのだとか。そうして課題の共有や原因追求、対応策の検討を行うことによって、早期に確実な解決策を提示したわけです。

そうすることによって、「工場での部品の設定基準の更新」といった現場の課題から、「電気自動車販売にあたってのディーラー販売店のサービスのあり方」などの大きなテーマまで、実効性ある取り組みがなされてきたということ。(24ページより)

学校の授業が“ワークショップ”になり、先生はファシリテーターに

2017年に実施される小中学校の学習指導要領の改革に際し、「主体的・対話的で深い学び」として、アクティブラーニングという手法が全科目に導入されます。従来のような、教師から児童・生徒への一方通行の授業ではなく、グループディスカッションやワークショップ、フィールドワークなどを用いて、生徒たち「学ぶ側」が主体的に学んでいく形での授業を展開していくというもの。

教育界ではこれまでも「調べ学習」「ディベート」「反転学習」(生徒が予習をして授業に臨み、授業では論点を中心に議論を行う)「総合的な学習の時間」など、さまざまなかたちで生徒の主体性を引き出す手法を開発・実践してきました。そんななか、アクティブラーニングは従来の「ティーチング(教えること)」から「ラーニング(学ぶこと)」へと大きくシフトさせるものとして注目を集めているというのです。

アクティブラーニングの手法の多くはファシリテーションの技法に基づいており、これからの教員はファシリテーターとして、子どもの可能性を引き出す役割を持つのだと著者は解説しています。

また、まちづくりや地元の再構築、さらには医療や福祉の分野にも、ファシリテーションの活用範囲は広がっているのだそうです。

このような考え方に基づき、以後の章ではファシリテーションを活用するための方法やスキル、そして心構えがわかりやすく解説されています。また、先に触れた「日産ゴーン改革」などを引き合いに出した実践例も掲載。そのため、ファシリテーションを深く理解し、応用することができるわけです。ビジネスを活性化させたい人にとっては、必読の書といえそうです。

メディアジーン lifehacker
2017年5月30日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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