宮城谷昌光×宮部みゆき 対談「つながりゆく文学の系譜」―作家生活30周年記念・秘蔵原稿公開

対談・鼎談

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風は山河より 1

『風は山河より 1』

著者
宮城谷 昌光 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784101444512
発売日
2009/10/28
価格
605円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

つながりゆく文学の系譜

  小説における二つの流儀

宮城谷 今回、『名もなき毒』で賞も受賞なさいましたが、宮部さんの小説は話術が秀でている。話術とは、語ってきかせるという小説の基本的なもので、とても重要な要素です。私は、書いてみせるという「書き言葉」の小説家なので、語ってきかせるということは上手(うま)くできないかもしれません。あなたは話し言葉の小説家ですね。

宮部 あ……、そうかもしれません。少し、おもい当たるところもあります。私の母親は終戦直後にハリウッド映画が大量に日本にはいってきたとき、それを怒濤(どとう)のようにみていたらしいんですね。その内容を私たち姉妹に語って聞かせてくれていたんです。大きくなって映画館でみた作品もありますが、最初はすべて聞いて覚えました。

宮城谷 書き言葉の小説家には方法論が必要なのです。言葉を順序立てて並べていく方法を徹底的につくらないと小説が成立しません。話し言葉なら、多少前後しても意味がつながるはずです。だから、書き言葉の小説家の道を選ぶなら、まず最初に、どうして小説を書くかというテーマから取り組む必要性がでてきます。私はその方法論にとても興味があって、小説を読むといつもそこが気になってしまいます。だから話を展開させるための「軸」がみえてこない作家を理解するのはたいそう難しいですね。

宮部 小説には、大きく二つの流れがあると私も思います。古くから文字で記されてきたものと、口承で伝えられてきたものと。話し言葉の小説家……。とても胸に落ちました。

宮城谷 若い頃から小説や物語、詩を読んでいない人は、私のようにやらなければなりません。自然に読んできた人は、話し言葉の作品をすんなり書けるかもしれません。けれども、話し言葉は、個性をだしにくいものでもあるのです。

宮部 スタイルをつくりようがないところはありますね。

宮城谷 話し言葉で、この人しか書けないという文章を書くのは、とても難しいことですよ。

宮部 そうですね。リズムが揃(そろ)ってしまえば、誰でも同じように聞こえますものね。

宮城谷 最近は小説を書きたいという人が増えているようですが、まずは上ばかりみずに、自分が何者であるのかを把握しなければなりません。そのために、後ろを振り返ったり、左右をみたり。それが自分を知る訓練になります。もちろん、現代の作家だけでなく、昔の作家の作品も読まなければなりません。

宮部 つながっている、というのが文学の強みですよね。その気さえあれば、何百年前の作品も読むことができる。宮城谷さんのお話は、小説家志望の人や、デビューして間もない人は必読ですね。それにしても、宮城谷さんとは長くお付き合いをさせていただいているのに、今日ははじめて伺うお話がいっばいありました。目からウロコが落ちるようでした。

宮城谷 私もですよ。だって宮部さん、ルパン一冊も読んでいないんだから(笑)。

宮部 これからもよろしくお願いいたします。

宮城谷 こちらこそ。また楽しい旅行に行きましょう。

新潮社 小説新潮
2007年4月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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