時代と共に歩む喜び 〈逃げ道〉を与えた罪深きアンアンの嘘

レビュー

5
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

ananの嘘

『ananの嘘』

著者
酒井順子 [著]
出版社
マガジンハウス
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784838729159
発売日
2017/03/22
価格
1,404円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

時代と共に歩む喜び 〈逃げ道〉を与えた罪深きアンアンの嘘

[レビュアー] 文月悠光(詩人)

 一九七〇年の創刊以来、女性向けに様々な生活情報を提供し続けてきた雑誌「アンアン」。本書は、その歴史を当時の誌面と共に振り返り、時代の変遷を紐解いていく。
 創刊時の「アンアン」が掲げる女性像は、ウーマンリブがお手本だった。男性に媚びず、自分の仕事を持ち、主体的に選択するパワフルな女性像。異性にうけることよりも、自分の欲望に忠実であれ、と読者へ強く呼びかけるのだ。
 だが、ときに過激な方向へ振り切れることも。「レズビアンを体験」「チビデブを支持します」など、自由すぎる特集が目を引く。その常識破りの姿勢は、女性の旅ブームなど、様々な社会現象を生むことになる。本書は、アンアン本誌での連載コラムが元になっているにもかかわらず、歴代アンアンの迷走ぶりに細かくツッコミを入れていく。その内容が痛快で傑作なのだ。
 初期アンアンは、とにかく時代の先を行く。リセエンヌを世に送り出した雑誌といえば「オリーブ」という印象だが、実は初めて取り上げたのは「アンアン」、という事実は興味深い。シャネルなどの海外ブランドも、ブームのずっと前に紹介していた。一方、現在のアンアンといえば、占いやスピリチュアルの特集、男性芸能人のグラビアが話題。誌面の変貌も、時代に対応したものだった。
 一九七〇年代後半は、恋愛結婚する人が増加し、「自分の力で結婚しなくてはいけない時代」が到来。かの有名な「セックスで、きれいになる。」特集が組まれたのは、一九八四年のこと。初期アンアンが標榜していたのは、〈女性にとっての性の解放〉を目指す社会的なセックス。それに対し、八四年の特集は「きれいになる」という機能性を付与して、カジュアルなセックスライフを示した。そして、二〇〇〇年「恋に効くSEX」特集では、〈機能性より相手との関係性を重視し、恋愛をより深化させるためのセックス〉という位置づけに変化したという。
 占い・スピリチュアルブームの背景も、時代と密接に結びついている。生き方を自由に選択できるようになった分、自らの選択に不安を覚える女性は少なくなかった。長引く不況、雇用問題、男性の草食化――。努力だけではどうにもできない問題を、彼女たちは見えない力にすがって、乗り越えようとしたのだろう。
 アンアンが女性たちへ示した道は、必ずしも正しい方向ではなかった。けれど〈読者達はアンアンの道を歩いている時、「時代と共に歩む」という感覚を全身に覚え、確かに幸せだったのではないか〉と著者は綴る。時代と共に歩む歓び。それは、ゆとり世代の私が味わってこなかった感覚だ。
 スピリチュアルブームの先駆者・江原啓之氏は、巻末の対談で、〈アンアンは逃げ道をつくるような別の幸せも与えてきた。…だから罪深い〉と述べている。独身女性に〈逃げ道〉を与えた罪深きアンアンの嘘。だが、それは確かに女性の人生を彩り、夢を与えてきたに違いない。

週刊読書人
2017年5月19日号(第3190号) 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読書人

  • このエントリーをはてなブックマークに追加