『近代皇族妃のファッション』 青木淳子著

レビュー

2
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

近代皇族妃のファッション

『近代皇族妃のファッション』

著者
青木 淳子 [著]
出版社
中央公論新社
ISBN
9784120049576
価格
4,320円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『近代皇族妃のファッション』 青木淳子著

[レビュアー] 奈良岡聰智(政治史学者・京大教授)

外交に生き流行も先導

 日本において、皇室は「伝統」と「近代」を体現する、両義的な存在である。このことは、女性皇族の服装に端的に表れている。海外から国賓を迎える宮中晩餐(ばんさん)会で、彼女たちの正装は西洋のドレス姿である。他方で、宮中祭祀(さいし)の際は、平安時代から続く五衣(いつつぎぬ)、唐衣(からぎぬ)、裳(も)といった装束が着用される。こうした女性皇族の服装のあり方は、どのように形成されたのだろうか。本書はその源流と意味を探っている。

 著者が特に注目するのは、梨本宮(なしもとのみや)伊都子(いつこ)妃、朝香宮(あさかのみや)允子(のぶこ)妃という二人のプリンセスの海外渡航経験である。伊都子妃は、一九〇九年に夫である守正王と欧州七ヶ国を巡遊した。夫妻は洋装で身をまとい、天皇・皇后の名代として、各国で王族や有力者と会見した。また、社交界で歓待を受け、その動静は各地のメディアで報じられた。著者は、多数の写真や現存するドレスを活用しながら、丹念に分析を行っている。

 伊都子妃は、パリに到着して直ちにデパートで買物を行うなど、ファッションに力を入れた。一九二三~二五年にパリに滞在した允子妃も同様で、朝香宮夫妻の生活費は、当時の日本の一般的な勤労家庭の支出の約一四〇倍にものぼった。こうした海外での消費行動を、「浪費」だと批判することはたやすい。しかし、著者はそのような見方を取らない。ファッションへの多額の支出があったからこそ、本格的な外交儀礼や西洋文化を身につけ、親善外交を行うことができたと見るのである。彼女たちの動向は日本国内でも報じられ、やがて一般の人々の間に西洋のファッションが普及するきっかけともなった。女性皇族は、いわば「外交官」でも「ファッション・リーダー」でもあったのである。

 成人皇族数の激減という事態が迫る中、女性皇族の地位や役割について再検討が求められている。本書は、ファッションにとどまらず、幅広い観点から検討を行っており、地に足のついた皇室論議のための手がかりを与えてくれる。

 ◇あおき・じゅんこ=1959年、福岡県生まれ。大東文化大特任准教授。専門は比較文化学、服飾文化史など。

 中央公論新社 4000円

読売新聞
2017年5月28日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加