『菜食への疑問に答える13章』 シェリー・F・コーブ著

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菜食への疑問に答える13章

『菜食への疑問に答える13章』

著者
シェリー・F・コーブ [著]/井上太一 [訳]
出版社
新評論
ISBN
9784794810588
発売日
2017/04/13
価格
2,700円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『菜食への疑問に答える13章』 シェリー・F・コーブ著

[レビュアー] 服部文祥(登山家・作家)

命と食への思考を促す

 『ビーガン』とよばれる人がいる。いわゆる完全菜食主義者で、肉魚はもちろん、卵も乳製品も食べない。「殺したくないから肉は食べない」がその思想の根底にある。

 肉を食べるなら自分で殺すべきである、が私(評者)を狩猟に導いた理由のひとつである。行程も結論も逆だが思考の中身はよく似ている。だから食べ物やいのちに関して深く考え、たどり着いた思想を体現しようとするビーガンの態度には親近感を感じる。

 一方でビーガンの存在は肉食を責められているようで感情的に引っかかるのも事実である。それは私だけではないようでビーガンは難しい質問に晒(さら)されるようだ。解答の根底となる著者の柱は明快だ。

 あきらかに情動を認められる生き物が家畜家禽(かきん)として残虐な扱いを受けている。それは肉、卵、乳を商品として流通する現在の経済システムのせいである。それを止めるには動物性タンパク質の不買不食しかない。短絡的にも思える結論だが、本書を読めば納得できる。そのうえ菜食は、健康を促進し、温暖化対策、飢餓問題の解決にもつながる。逆に肉や卵を買うということは家畜の虐殺を認め、推進することである。

 植物も生物ではないのか。まったくほかの命を奪わないで生きることはそもそも無理。動物性のタンパク質を摂(と)らないと健康を害するのでは。それら質問へのまっすぐな解答は続く。

 食事の楽しみ、栄養、肉食獣の存在、人道的な畜産の可能性。それらは動物の虐待を止めたいという想(おも)いに比べればおまけ的だが、著者はひとつひとつ丁寧に論を展開し、命と食と健康と経済と正義と道徳に関して思考を促してくる。

 「直観で」という言葉が多数出てくるのが気になった。直観に頼ってしまったら「うまい」を覆すのは難しい。菜食者用のダシである昆布や干しシイタケに、魚介の代わりは荷が重いと私の直観はささやいている。井上太一訳。

 ◇Sherry F.Colb=米コーネル大教授。動物の権利、刑事訴訟法などを担当。著書に『性が問題になる時』。

 新評論 2500円

読売新聞
2017年5月28日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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