『心を操る寄生生物―感情から文化・社会まで』 キャスリン・マコーリフ著

レビュー

1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

心を操る寄生生物

『心を操る寄生生物』

著者
キャスリン・マコーリフ [著]/西田美緒子 [訳]
出版社
インターシフト
ISBN
9784772695558
発売日
2017/04/15
価格
2,484円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『心を操る寄生生物―感情から文化・社会まで』 キャスリン・マコーリフ著

[レビュアー] 塚谷裕一(植物学者・東京大教授)

徹底取材した決定版

 寄生虫にたかられたネズミは行動が異常となり、わざわざ猫に向かって身を投じることで、体内に巣くう寄生虫を猫の体内へ届ける役目を果たす。また別の寄生虫は卵を水中に放出すべく、寄主のコオロギを操って入水をさせる……こうした事例は数多く知られており、そのインパクトの強さから、一般向けの紹介記事や書籍も数多い。そうした中で本書は、はっきりした特徴から、類書と一線を画している。

 一つは徹底した直接取材である。テーマに該当する事例は、ハリガネムシのような多細胞動物から、バクテリア、ウイルスまで幅広く、莫大(ばくだい)な数がある。著者はそれら事例の研究報告を丁寧に読み込んだ上で、それぞれの当の研究者に直(じか)に話を聞きに行っている。一般向け解説記事でにわか勉強しただけの類書が多い中、この徹底取材は大きな強みだ。

 第二の特徴は、他の研究者のセカンドオピニオンも聞いて、それぞれの解釈の妥当性を検証していることである。研究者が熱烈に自説を説く様子を描写する傍ら、その説が証明済みなのか、可能性が高い程度なのか、はたまた思いつきに過ぎないのかについて、冷静な注記を怠らない。しかもその判断は的確だ。

 寄生生物たちが寄主の行動を変え、自らの繁殖に有利なように操っている事例を数々見ていくと、誰しも自分自身の行動も不安になるだろう。そこに着目した類書も多い。本書もその可能性を指摘するが、違うのはさらに一歩踏み込んで、宗教心や民族対立などの背景にも、寄生生物に対する無意識の防御が関わっているのではないか、と進んでいくことだ。ここでも実際に、その可能性を追求している研究を数多く取材しまとめている。徹頭徹尾、よく研究し、よく取材した本だ。このテーマの解説書としては決定版と言えるだろう。惜しむらくは、首をかしげる訳語が散見されることだが、内容理解には問題のない程度である。西田美緒子訳。

 ◇Kathleen McAuliffe=サイエンスライター。科学雑誌『ディスカバー』誌の寄稿編集者。

 インターシフト 2300円

読売新聞
2017年5月28日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加