<東北の本棚>戦後日本人の心を引く

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<東北の本棚>戦後日本人の心を引く

[レビュアー] 河北新報


『玉城徹全歌集』
玉城徹[著](いりの舎)

 戦後を代表する歌人の一人、玉城徹(1924~2010年)は仙台市の出身。歌作の初期の作品から晩年を過ごした静岡時代まで、約4400首を収めた。玉城の集大成ともいうべき歌集全集だ。
 旧制二高から東京帝大に進み美学科を卒業。学徒出陣を経験、戦後は都立高校の教員を勤めながら作歌活動を展開した。
 <いづこにも貧しき路がよこたはり神の遊びのごとく白梅>が全集の一番先に置かれた作品だ。戦後間もない頃、東京の路(みち)はどこを見ても貧しい風景が続いていた。そこに神の遊びのように白梅が咲いている。「貧しさ」に「明るさ」を対比し、転換させた。戦後を生きる日本人の心情を引きつけた歌。玉城の初期の代表作となった。
 <雨の中に山鳩鳴けりけだしわれ兵士となりし日ぞはるかなる>。終戦時は陸軍の一兵卒として広島県福山市にいた。それから戦後十数年の歳月を経ても、兵士となり死を運命づけられた日々を思う。「今、生きている」ことを実感する。戦争体験の影が、まだまだ消えない。
 <また一つ乳のしづくのすべるごとユリカモメ飛ぶ朝のくもりを>。中央歌壇を離れ、自然と心の安らぎを求め静岡県沼津市に住んだ。市内を流れる狩野川を眺めている作者。ユリカモメがまるで白い乳のしずくが横滑りするかのように一羽、一羽と飛んでいく風景を、自らの心象に重ねた。
 帝大生時代に、最晩年の北原白秋の下で詩歌を学んだ。全集に、作者の出発点となった詩集「春の氷雪」を収めている。詩題「孤独の枝」に「何のために、おめおめ詩なぞ書いてゐるのか。」の一文。若き日の文学青年の惑いを詩で吐露している。
 いりの舎03(6413)8426=12960円。

河北新報
2017年6月4日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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