『密室 本能寺の変』
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<東北の本棚>謀反はなぜ、真犯人は?
[レビュアー] 河北新報
天下取りを目前にした織田信長が家臣の明智光秀に討たれた本能寺の変。だが、寺に乗り込んだ光秀は、信長が既に殺害されていたことを知る。いったい誰が-。誰もが知る戦国最大の事件を題材に、大胆な着想とフィクションを交えた歴史ミステリーに仕立てた。
物語は変の前日、1582(天正10)年6月1日に始まる。信長は茶会を催すため、京の本能寺に入った。警護は小姓の森蘭丸らわずかに30人。信長は朝廷に譲位を迫り、茶会に招いた公家や豪商たちから恨みを買っていた。叡山焼き打ちなどで宗教勢力からも反感を買い、徳川家康にも命を狙われる立場にあった。
一方、光秀は四面楚歌(そか)の信長に対し、警護の薄い本能寺入りは状況を過信したしくじりと憂えていた。「上様(信長)を殺したい者がどれほどいるか」。いっそ誰かに殺されるのなら自らの手で、と意を決する。
織田家中で最強の軍団を作り出し、天下布武に貢献した光秀がなぜ謀反を起こしたのかは日本史上の大きな謎の一つ。怨恨(えんこん)や黒幕説など諸説あるが、著者は「上様を最も慕う者こそ討つ資格がある」と光秀に言わしめ、近親憎悪にも似た感情と忠誠心の裏返しとして物語をダイナミックに進める。
刃物のような輝きと鋭さ、その狂気で男たちをとりこにする信長。光秀と蘭丸が嫉妬し合う場面が随所に描かれ、信長の魅力を怪しいまでに高める。
寺で交戦するさなか、信長は密室の寝所で亡きがらとなって見つかった。先を越された光秀が憤怒に包まれ、犯人捜しをする場面は読み応えがある。驚くべき結末は本書に譲るが、世の無常観や人生のはかなさを伝えるのに十分だ。
著者は1951年須賀川市生まれ。立教大卒。93年「黒牛と妖怪」で第17回歴史文学賞を受賞。時代小説の旗手として著書多数。
祥伝社03(3265)2081=1620円。