『僕が殺した人と僕を殺した人』 直木賞作家が描く少年たちの物語

レビュー

4
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僕が殺した人と僕を殺した人

『僕が殺した人と僕を殺した人』

著者
東山 彰良 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784163906430
発売日
2017/05/11
価格
1,728円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

取り戻すことのできない過去への憧憬

[レビュアー] 杉江松恋(書評家)

 友達とする夜の散歩が楽しくて、このままずっと同じ道を行けたらいいのに、と思ったことはないだろうか。東山彰良『僕が殺した人と僕を殺した人』は、そんな気持ちを抱えながらもう少し遠くまで行こうとして、見るはずがなかったものを見てしまった少年たちの物語だ。

 小説の起点は二個所に設けられている。一つは二〇一五年のデトロイト、十代の少年だけを狙って殺害する連続殺人者が逮捕されたのだ。死体を粗布の袋に入れて遺棄することからサックマンと呼ばれるその男に、弁護士の〈わたし〉は接見を求める。

 もう一つの起点は一九八四年の台北に置かれる。語り手の〈ぼく〉はユンと呼ばれる十三歳の少年だ。兄モウが何者かによって殺害されたことから、彼の家庭は不幸の坂を転げ落ち始める。精神の均衡を崩した母を転地療養させるため、両親はアメリカに旅立った。ユンにとっては幼馴染みのアガンと、その親友で喧嘩が強いジェイとの交わりこそが人生の中心になったのだ。隠れて吸う煙草、万引き、流行り始めたブレイクダンスへの挑戦、そんなことに没頭する日々が過ぎていく。しかし彼らは、その濃密な時間が間もなく終わることに気づいていなかった。

 二〇一五年に直木賞を獲得した東山の半自伝的小説『流(りゅう)』(講談社)と時間軸を一にする作品である。『流』は過去が長い放物線を描いて現在に到達するまでを描いた物語だった。本書では現在と過去が二重螺旋のような構造を取りながら共に進んでいく。一九八四年のユンたちの日常は、とある出来事によって中断されるのだが、真相が明らかになることにより、二〇一五年の事件にも光が射すのである。殺人者サックマンとは誰かという謎解きへの関心が小説の牽引力になるのだ。物語の根底には決して取り戻すことのできない過去への憧憬がある。現在と過去とを隔て広がる深い溝を、東山の美しい言葉だけが埋めてくれる。

新潮社 週刊新潮
2017年6月8日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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