『効かない健康食品 危ない自然・天然』
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フェイクに負けないひとつまみの塩を
[レビュアー] 小飼弾
「人間は自分が信じたいと望むようなことを自分から望んで信じる」。紀元前のベストセラー「ガリア戦記」(ユリウス・カエサル)の指摘から2000年。去年2016年はそれを改めて確認する年だった。日経サイエンス編集長古田彩のツイート「留守にしていた2年間の最大の科学ニュースは何かというと、重力波の観測でも、ノーベル賞の連続受賞でもなくて、米国にトランプ政権ができたことだと思います」には同意しかない。
同政権誕生以前から猖獗(しょうけつ)を極めているフェイクニュースの影響を最も受けているのは医食の世界ではなかろうか。読まぬ人はいても、食わぬ人はいない。先進国はおろか全世界的に飢餓より肥満の方が深刻な問題となった今、我々の食への興味は量から質へと移行している。しかし我々の性向はカエサルの時代からまるで変わっていない。信じたい情報をひとつまみふりかけるだけで、毒にも薬にもならないものが健康食品になり、長年かけて安全性が保証されたものが体に悪いものになってしまう。その信じたい情報の筆頭は、「自然は体にいい」だろう。蜂蜜と白砂糖、どちらがヘルシーか? 前者と感じる人は、松永和紀『効かない健康食品 危ない自然・天然』でデトックスしてほしい。天然のボツリヌス菌が入った蜂蜜離乳食で乳児を死なせてしまう前に。話を鵜呑みにしないことを、英語ではひとつまみの塩(with a grain of salt)という。かけるなら本書を。