<世界史>の哲学 近世篇 大澤真幸 著

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〈世界史〉の哲学 近世篇

『〈世界史〉の哲学 近世篇』

著者
大澤 真幸 [著]
出版社
講談社
ジャンル
哲学・宗教・心理学/哲学
ISBN
9784062204538
発売日
2017/03/22
価格
2,700円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

<世界史>の哲学 近世篇 大澤真幸 著

[レビュアー] 井口時男(文芸評論家)

◆中世の矛盾破る論理

 「世界史」を駆動する根底の論理を探究して、古代篇、中世篇、東洋篇、イスラーム篇とつづいたシリーズの五巻目。対象はヨーロッパの近世。

 近世とは、ルネッサンスから十八世紀末まで。宗教改革があり、大航海と新大陸発見があり、近代科学が誕生し世界経済としての資本主義も始まった。今日ではあたりまえになっている遠近法による絵画も、民主主義の根幹である議会制度も、この時代に生まれた。近代の基礎が形成され、我々の生きる現代と地続きの時代がここに出現したのである。

 いったい閉ざされた中世の中から中世を否定する論理はいかにして生まれたのか。そして、それはなぜヨーロッパでしか生まれなかったのか。

 本書はあくまで「哲学」である。著者の探究は、事実レベルの因果関係ではなく、その背後にあるシステムの仕組みや深層の論理へと遡及(そきゅう)していく。最終的に浮かび上がるのはキリスト教という宗教の論理の特異性である。神にして人間であるというキリストの不可解な二重性、さらに「三位一体」という謎の概念。

 著者の分析過程を逆にたどれば、中世神学の中に封じられていたこうした論理矛盾が徐々にほどけ、自己展開して近世という新たなシステムを形成していくようにも見えてくる。スリリングな知的興奮を与えてくれる書物だ。
 (講談社・2700円)

<おおさわ・まさち> 1958年生まれ。社会学者。著書『ナショナリズムの由来』。

◆もう1冊 

 柄谷行人著『世界史の構造』(岩波現代文庫)。近現代の国家の起源をたどり、交換様式の観点から歴史を捉え直す。

中日新聞 東京新聞
2017年6月4日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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