「絶対音感」は育てられる。その理由とは?

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「絶対音感」は育てられる。その理由とは?

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

「絶対音感」は、音楽家など音楽の才能を持つ人だけにある、特別な才能だと思われがちですが、実は特別な能力ではないのです。6歳までにレッスンを始めれば、誰でも身につけることができると言ったらいかがでしょうか? 最近では、脳科学の研究が進み、幼少期に聴く力(=耳)を育てること、「絶対音感」を身につけるレッスンをすることで、脳が発達することもわかってきました。絶対音感を身につけた子どもたちが集中力、記憶力に目覚ましい変化が起こるのも無関係ではないでしょう。(「はじめに 聴く力を育てることが子どもの未来をつくる」より)

こう主張するのは、『子どもがどんどん賢くなる「絶対音感」の育て方』(鬼頭敬子著、青春出版社)の著者。3000人以上の幼児から聞き取り調査を行い、幼児特有の音の聞こえ方や理解の仕方を研究。その結果、絶対音感を身につけるメソッドを確立したという絶対音感コーチ、ポピュラーピアノ講師です。

まだまだ知られていない「絶対音感」という音の世界を、もっと多くの方に知ってもらいたい、そして、音楽家を目指さない多くのお子さんたちもその力を身につけることで、隠れた能力を発揮してほしいと願い、この本を書きました。(「はじめに 聴く力を育てることが子どもの未来をつくる」より)

でも実際のところ、「絶対音感」という言葉には聞き覚えがあっても、それがどんなものなのか、しっかり理解している方は意外に少ないかもしれません。そこで第1章「なぜ『絶対音感』は脳を発達させるのか? ——子どもの成長は『聴く力』で変わる」から、基礎的な部分を抜き出してみることにしましょう。

そもそも「絶対音感」とはなにか?

著者は「絶対音感」について、次のように解説しています。

「絶対音感」とは、その音だけ聴いて、「ドレミ」という音名(おんめい)でわかる能力のことです。この能力は決して、持って生まれた才能ではありません。聴覚が発達する6歳くらいまでにレッスンをすれば、だれでも身につけることができる能力なのです。(29ページより)

なお、これに対する「相対音感」というものもあるのだそうです。最初の基準となる音を教えてもらい、その基準音とくらべることで音名がわかる能力。こちらは、大人でも身につけることができるものだといいます。

「絶対音感」は、「ファ」の音を聴いて「ファ」とわかる能力。対する「相対音感」は、たとえば初めに「ド」の音を教えてもらい、その基準音から「ドレミファ」と歌ったりすることによって「ファ」がわかる能力だということです。

ちなみに新潟大学の宮崎謙一教授の研究によれば、「絶対音感」を持っているのは、ポーランドのショパン音楽アカデミーの学生で約11パーセント、早期音楽教育が盛んな日本の音大生で約30パーセントなのだそうです。そして著者が重要なことだとしているのは、「絶対音感」を持っている人にも個人差があること。

たとえば絶対音感を持っている人のなかには「カラオケでキーを上げ下げされると違和感を覚えて楽しめず、原曲でなければ歌えない」という人がいるそうです。そういう話を聞くと、「音楽を楽しめなくするのなら、絶対音感を持っていなくてよかった」と感じても当然かもしれません。しかし実際のところ、それは個人的なひとつの感想に過ぎないというのです。

事実、(絶対音感を持つ)著者は、キーを上げようが下げようが楽しく歌えるそうです。そして同じように、「生活音まで音名で聞こえてきて、不協和音で気分が悪くなる」という繊細な表現も、あくまで個人的な感想なのだとか。つまり、絶対音感を持つ人すべてが同じだということではないわけです。(28ページより)

7歳までに子どもの耳は決まる! 特に3歳までは重要

生まれたばかりの赤ちゃんは「お母さんの声の音」を知っているため、絶対音感を持っている人と同じように耳がいいのだそうです。だとすれば、生まれてすぐにCDやパソコンなどを通じて英会話を流しておけば、英語が話せるようになるのでしょうか? 結論からいえば、残念ながらそうではないようです。

このことについて著者は、「1歳までの子どもは、CDやパソコンなど、なにかの媒体を通してしまった音は認識できず、目の前にいる人間からの直接の音でしか学べないのではないか」と推測しています。そして、いちばん届きやすいのがお母さんの声ではないだろうかというのです。

きっと赤ちゃんは、現実の音と機械の音との違いを聴き分けているのではないかと思います。わたしはCDやパソコンからの音は、空気感を含まない「圧縮している音」のように生の音とは違って聴こえます。近年、その空気感のように耳に聴こえない音が、人間にとって「感動」と「安らぎ」になり、きわめて重要だということがわかりました。1歳までの赤ちゃんの聴覚は、人間として成長していくために必要なことと関係しているのかもしれません。1歳を過ぎると、何かの媒体を通した音も認識できるようになります。(53ページより)

そして、それ以降は年齢が上がるほど視覚も発達し、言葉を話すようになること。つまりは、だんだん聴覚に頼らなくてもよくなるということです。そのため、聴き分ける力が下がっていくのではないか? 多くの子供たちを観察してきた結果、著者はそのような考え方に行き着いたということです。そしてさらに、3歳までに脳の80パーセントが完成し、使わない能力の間引きが行われているからかもしれないとも推測しています。

事実、絶対音感のレッスンをしている2歳と5歳の子供に英語を聴かせて発音してもらうと、2歳の子のほうがネイティブに近い発音をするのだそうです。幼児は当然のことながら知識も少ないわけですが、音をそのまま純粋に聴き分ける能力や、その音を真似て同じ音を出せるということ。また、それ以前に、それを同じ音だと認識できる能力(聴き取る能力)が高いというのです。

また、最大で7歳までの臨界期(それ以降、学習が上達しなくなる限界の時期)が近づくにつれ、言葉数や他の知識も増えていくことになります。そのためレッスン中も、単に聴覚だけでなく、さまざまな思考が働いてしまうため手を焼くことも多くなってしまうようだといいます。

だからこそ、脳が急激に発達する3歳までのほうが、より質の高い「絶対音感」の能力を育てられるというのです。いうまでもなく、聴覚だけで純粋に音を聴くことができ、それを身につけやすく、臨界期までにも時間があるから。(52ページより)

グズる子、イヤイヤ期の子どもも笑顔に変わる、すごい効果

幼児はまだボキャブラリーが少ないため、言葉を使って自分の意思を伝えるのが難しいもの。つまり、うまく言葉にできず、自分の意思が伝わらないからイライラしてしまうということ。そのため、泣き出したりわめいたりして表現をするわけです。

ところが、そんな幼少期に絶対音感を身につけるレッスンをして「音」がわかるようになれば、子どもたちはぐずることが減り、とてもうれしい表情をするようになると著者は記しています。

その「音」が、お母さんの知っている言葉と一致したとすると、認められたと感じてうれしくなるということ。しかも脳は「音」を覚えていくうちに急激な発達をしていくため、以前よりも言葉の理解力が身につくのだそうです。つまり絶対音感を身につけ、自分のなかに「音」を持つことはとても重要。才能が開花するだけでなく、子どもにとってもうれしいことだというのです。

わたし自身、絶対音感を持っていることで、日々の暮らしや人生がとても楽しく感じられます。絶対音感を持たない夫と、絶対音感を持つわたしと娘とでは、そのときの行動が違いました。

絶対音感を持たない夫は、「なんの音だろう?」と心配そうに見に行きます。ところが、わたしと娘は動きません。なぜでしょうか?

それは、絶対音感があるため、一度経験した「音」を記憶していたからです。

あの音は「階段前の棚に置いてある置物が倒れた音だな」と察しがつくので、あえて見に行かなくてもいいのです。(64ページより)

著者によれば、「音」は天候によっても、自分の体調によっても、聞こえ方が変化するもの。たとえばピアノが昨日と同じ状態だとしても、晴れの日と雨に日とでは違って聞こえるというわけです。また、体調によっても違って聞こえることがあるといいます。

だとすれば、もしもそういった些細な変化に気づけるようになれたなら、人が話した言葉の意図を「音」の違いから察知できるようになるはず。そのため、自然と円滑なコミュニケーションを実現できるようになるのだそうです。幼少期から子供の絶対音感を育てるべきだという著者の考え方の根底には、そのような思いがあるようです。(62ページより)

以後の章では豊富なイラストとともに、「鬼頭流絶対音感メソッド」がわかりやすく解説されています。決して難しいものではないので、すぐに試してみることができるはず。子どもの絶対音感を育てたい方には、必読の1冊だといえそうです。

メディアジーン lifehacker
2017年6月5日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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