【聞きたい。】ブレイディみかこさん 『子どもたちの階級闘争 ブロークン・ブリテンの無料託児所から』

インタビュー

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【聞きたい。】ブレイディみかこさん 『子どもたちの階級闘争 ブロークン・ブリテンの無料託児所から』


ブレイディみかこさん

 ■“地べた”から描く分断

 「政治って、上の方で勝手にやっているものと思いがちだけど、その影響は私たちの生活に出ている。この本で言いたいのは『政治は“地べた”に転がっている』ということなんです」

 そう話す著者は英国在住20年になるライターで保育士。本書は自らが身を置いた保育の最前線から、グローバル規模で進む格差と分断の実態を浮き彫りにするノンフィクションだ。

 2008年に著者が働き始めたのは〈平均収入、失業率、疾病率が全国最悪の水準〉とも言われる地区にある、無料の〈底辺託児所〉。恋人に夢中で子供を迎えに来ないシングルマザーもいるし野獣のように暴れ回る子もいる。問題山積だけれどエネルギーにみちた空間。それが、「別の保育園に4年勤めて再び戻ると、人が少なく全く活気がない場に変わっていた。おもちゃも絵本もすごく古びてしまって」。

 保守党政権が財政赤字削減のため福祉関係の支出をカット。補助金削減の影響が託児所の運営を悪化させていたのだ。国の緊縮財政が、結果として社会階層の「上下」、移民と英国人といった「横」の分離と固定化を加速させた現実が、託児所に集う親子らの日常を通して活写される。

 「緊縮策は一人一人の心の余裕がなくなる『人心のデフレ』も招いた、と思うんです。かつては人種も考え方も違う人が触れ合いながら何とかうまくやっていた。それが今は本当の衝突に至る。人間、尊厳が持てないと他人にも優しくなれないから」

 読み進むうちEU離脱を選んだ英の国民投票結果の深層に潜むものもおぼろに見えてくる。

 格差や待機児童問題に直面する日本の参考になる視座も多い。重い現実を笑い飛ばすユーモアを交えた筆致も心地良い。「子供を変えるのは、未来を変えること。デモだけが社会運動じゃない。身の回りでできることから始めればいいんです」(みすず書房・2400円+税)

 海老沢類

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【プロフィル】ブレイディみかこ

 Brady Mikako 昭和40年、福岡市生まれ。英国ブライトン在住。著書に『アナキズム・イン・ザ・UK-壊れた英国とパンク保育士奮闘記』など。

産経新聞
2017年6月4日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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