増山実・インタビュー 故郷を離れて生きている人間に着目 三部作の共通点は“宝塚”《特集 増山実の世界》

インタビュー

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風よ 僕らに海の歌を

『風よ 僕らに海の歌を』

著者
増山実 [著]
出版社
角川春樹事務所
ISBN
9784758413053
発売日
2017/05/31
価格
1,728円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

【特集 増山実の世界】著者インタビュー&解説

デビュー作『勇者たちへの伝言』が各方面から絶賛された増山実。放送作家として活躍しつつも、その確かな筆致には期待と注目が寄せられている。新刊『風よ 僕らに海の歌を』は三作目であると同時に、『勇者たちへの伝言』から始まる「昭和三部作」の最終章になるという。そこにはいかなる思いが込められているのだろうか。

 ***

――『風よ 僕らに海の歌を』は、デビュー作『勇者たちへの伝言』と二作目の『空の走者たち』とあわせて三部作になるそうですね。いずれも昭和という時代に波乱の人生を送った人々が描かれていますが、当初から三部作という構想を持っていたのでしょうか。

増山実(以下、増山) いえ、結果的にそうなりました。三作とも時代設定が同じで、故郷が共通のテーマでもありますが、書きながらなんとなくそういうビジョンが見えてきたというのが本当のところで。僕の場合、興味が湧く、関心が向くものが決まっているようなんです。

――というと?

増山 故郷を離れて生きている人間にすごく興味を持つところがありますね。今回の小説は、運命のいたずらで宝塚に来たイタリア人とその家族を軸に物語が展開していきますが、前作ではマラソン選手の円谷幸吉が東京オリンピックのときに見上げた空に、故郷の福島県須賀川市の空を重ねたという場面があったり、東日本大震災によって故郷を離れ、日本各地で避難しながら暮らす人々に思いを馳せて書いた部分もあります。デビュー作も故郷を離れ、故郷を追い求めて生きる人々の物語でした。追い求めているテーマは似ていると思います。また、これも三作に共通していることですが、宝塚が出てきます。特に今回は、物語の中心に宝塚という街がある。僕は関西出身なので、やはり関西を舞台にした小説を書きたいという思いは強いですね。

――増山さんも宝塚にお住まいですね。

増山 もう20年ぐらいになります。宝塚はすごく面白いところで、日本の中でも特殊な街なんです。仕事柄日本全国に行きますが、挨拶の折に名刺を渡すと、「あ、宝塚ですか」ともう全員がわかる。知名度がとても高いんです。なんといっても宝塚歌劇が有名ですから。ただ今回僕が書いたのは、戦中から戦後、昭和30年代ぐらいまでの宝塚です。この時代の宝塚はあまり知られていないんです。例えば、太平洋戦争中には宝塚大劇場は海軍予科練、特攻隊の訓練施設になりましたが、そうした歴史を知る人は多くない。あまり知られていない宝塚の姿が出てきますので、関西の人にも興味深く読んでもらえたら嬉しいですね。

――史実を盛り込み、小説にするのが増山作品のひとつの特徴にもなっています。今伺った話以外にも、実話をベースにしている部分はありますか。

増山 ジルベルト・アリオッタという主人公が終戦直後の宝塚でイタリア料理店を開きますが、モデルになった店があります。また、物語の冒頭で描いている日独伊の三国同盟からイタリアが突然抜け駆けして全面降伏し連合国側についたこと、そのとき神戸沖にいたイタリア海軍の兵士たちは捕虜になって日本の収容所に入れられたという話も実際にあったことです。そういう意味では実話に基づいていますが、ストーリーには僕の創作も入っていますからあくまでもフィクションではあります。面白いのは、三国同盟に関する資料や小説は膨大にあるのに、そのほとんどが日本とドイツの関係に言及したもので、日本とイタリアに関するものはあまりないということです。一夜にして味方が敵になったわけで、相当な混乱もあったはずなんです。でも、そのあたりの学術的な研究資料はあまりないし、ノンフィクションや小説でも、ほとんどスポットを当てられていない。だから逆に興味を持ち、当時の日本とイタリアの関係を書いてみたいと思いました。

――以前から関心を持ち、温めていた題材だったのですか。

増山 実は僕もそこはエアポケットで、今回取材して初めて知りました。言われてみれば……という感じですよね。しかし知るほどに歴史の皮肉というか、戦争の理不尽さ、人間の運命を翻弄する理不尽さを象徴しているように感じて気持ちが動かされました。

――翻弄されるのは、常に普通の人ですね。

増山 そう。だから、個人の人生のなかにこそ歴史があると思います。言い換えれば、歴史という大きな流れの中には必ず個人がいる。僕は、個人の人生をもって歴史を見るという物語の構図に惹かれます。

――宝塚でイタリア料理店を始めたジルベルトとその息子エリオの二代にわたる物語を軸に、そこに交錯する人々の人生も同時に描いた本作。舞台となる宝塚だけでなく、主人公の故郷であるイタリア・シチリアの風景も丁寧に描写されていて、とても印象的でした。

増山 シチリアには実際に取材に行きました。行ってみて初めてわかることがたくさんありますね。米軍基地があったり、難民施設があったりと、僕らが思い描いているイメージとは違う側面がたくさん見えてきました。また、表紙カバーも実際に僕が見たシチリアの風景をイラストにしてもらっています。目の前に地中海が広がり、水平線の向こうはアフリカ大陸です。その海を眺めていると、人と人を隔てるもののように思いがちな海が、本当はいろんなものを?いでいるんだと感じることができました。

――その思いは作品からしっかりと伝わってきます。丹念な取材は増山さんの持ち味だと思いますが、執筆するうえで欠くことのできないものでもあるのでしょうか。

増山 事実関係を知ることも大事ですが、何気ないエピソードというのが物語の重要な原動力になっていくこともあります。例えば、今回アリオッタ家に伝わる家訓として登場させている「無花果の夢を見たら気を付けろ」という言葉は、取材の中で伺ったものです。なんでそういう言い伝えがあるのか本人もわからないそうですが、答えがないだけに面白い。想像が膨らみ、物語もどんどん広がっていきます。こういうのって、自分の頭の中だけでは思い浮かばないですよね。

――取材を重ねての執筆活動。放送作家との両立は大変ではないですか。

増山 そうですね。ただ今後は少しずつ小説のほうにウェイトを置いていこうと思っています。実は『勇者たちへの伝言』が去年、「大阪ほんま本大賞」をいただきました。本屋大賞の関西版みたいなものですが、応援してくれた書店の思いに応えないかんと講演会やサイン会などを多く引き受けた結果、執筆が止まってしまって。この三作目も本来もう少し早く出す予定だったので、角川春樹事務所さんには申し訳ないことをしてしまいました(笑)。

――多忙を極めながらも書きあげられた。作家としての手応えにも?がったのではないですか。

増山 集中するコツをつかみ始めた気がします。

――そのコツ、教えていただくことはできますか。

増山 執筆する日はほかのことを一切しない(笑)。いや、ホンマにそうなんです。書こうと思ったら、その日一日空けておかないとダメなんです。もちろん24時間ずっと執筆しているわけではないですよ。でも、一日空けておくと無意識の中でも考えることができる。歯を磨いたり風呂に入ったりというルーチンをしていてもアイデアが浮かぶ。決定的なアイデアって、そういう時に生まれるんです。

――次の作品のアイデアも生まれているでしょうか。

増山 ええ。たくさんあります。違ったテーマにもチャレンジしてみたいですね。ただ、根底に流れるものは、変わらないと思います。

――楽しみにしています。

角川春樹事務所 ランティエ
2017年7月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

角川春樹事務所

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