『帝都探偵奇譚 東京少年D団 明智小五郎の帰還』
- 著者
- 本兌有 [著]/ブラッドレー・ボンド [著]/フィリップ・N・モーゼス [著]/杉ライカ [著]/アントンシク [イラスト]/江戸川乱歩 [原作]
- 出版社
- PHP研究所
- ISBN
- 9784569832555
- 発売日
- 2017/01/25
- 価格
- 1,430円(税込)
架神恭介は『東京少年D団』の原作の「なんじゃこりゃ」感を逆手にとったところに凄みを感じる
[レビュアー] 架神恭介(作家/パンクロッカー)
今回ご紹介するのは江戸川乱歩のリメイク小説「東京少年D団」です。Dの意味はDetectiveのD。そう、本書は少年探偵団シリーズのスチームパンク風リメイク作品なのです。
リメイクを手がけたのは『ニンジャスレイヤー』などの著作を持つブラッドレー・ボンド氏とフィリップ・ニンジャ・モーゼズ氏。英語版の『怪人二十面相』を読んで興味を持ち、このスチームパンク版少年探偵団を書き上げたのです。訳は、同じく『ニンジャスレイヤー』の翻訳で知られる本兌有(ほんだゆう)氏と杉ライカ氏。
さて、少年探偵団シリーズを実際に読んだことがある人は読者の中にどれほどいるのでしょうか。諸タイトル群を眺めるだけでも、鬼面人を驚かす刺激的なフレーズが並んでいます。『怪人二十面相』もそうですし、『妖怪博士』『鉄塔の怪人』『奇面城の秘密』『鉄人Q』などなど。われわれの本能を刺激し、妖しく怪奇な想像を掻き立たてる魅惑的なタイトルばかりです。
しかし、実際に読むと、「なんじゃこりゃ」的なものも多かったりします。いかんせん大昔の子供向け小説ですので、トリックがすごい力技だったり、現実感がなかったりと、現代の大人の普通の読書基準からするとなかなか耐えられないものだったりします。
ですが、本リメイク作品ではそこを逆手に取っていきます。怪奇的かつ猟奇的なニュアンスをこれでもかと強調。少しでも猟奇的に見えそうなシーンが出ると、すかさずボールド処理された体言止めの煽り文が挿入されるのです。
「猟奇! 幼子を抱いて逃げ去りたる暗黒存在!」
「猟奇! 名状しがたき逆さ人間!」
逆さ人間は単に男が逆さでぶら下がっているだけなので、特に猟奇的でもないんですが、僅かでも猟奇的っぽければ問答無用で入れてきます。
また、原作の強引な力技トリックもそのままに使用し、あるいはさらに強調して、独自のユーモアとしています。
特に顕著なのが後半の「闇人」が出てくる展開です。闇と同化した真っ黒な人間が帝都を騒がす事件なのですが、原作ではこれは最初インド人による魔術だと考えられます。もうこの時点でムチャクチャですが、リメイク版ではそこをさらにヒートアップ。インド人疑惑が以下のように展開していきます。
「犯人はインド人では?」
「いや、インド人の肌の色は褐色であって闇の色ではない」
「やっぱりインド人では?」
「やはりインド人だったか!」
「いや、違う。インド人と思わせたのはフェイクだ」
「犯人は怪人二十面相だ!」
と、こんな感じで、現代人の大人にはもはや通用するはずもない「犯人はインド人」のミスリードを矢鱈(やたら)に強調することで、原作の持つムチャクチャさをユーモアとして昇華しているのです。
それにしても、「顔に煤を塗って、闇と同化するインド魔術師の振りをする」というトリック(?)は原作からして本当にムチャクチャだ。昔の人はインド人のことをなんだと思ってたんでしょうね。