『ゴールデンゴールド(1)』
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『ゴールデンゴールド(2)』
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中条省平は『ゴールデンゴールド』の面白さの真髄は、時代の閉塞感を鋭敏に反映しているところにあると思う
[レビュアー] 中条省平(学習院大学フランス語圏文化学科教授)
いま展開を一番楽しみにしているマンガは、堀尾省太の『ゴールデンゴールド』です。最近第2巻が出ましたが、早く先を読みたくて仕方ありません。なぜこんなに面白いのか? 冷静に原因を探ってみましょう。
まず、この作品は時代の空気を鋭敏に反映しています。
政財界ではアベノミクスなんてものを支持しているようですが、本気ですか? 私の感覚では、経済的には日本はほとんど行くところまで行っていて、これ以上発展する余地がない。でも、なんとかそれなりの生活が維持できているので、まあ、こんな調子で生活は続くだろう。とはいえ、ちょっとしたきっかけ(リストラとか家族の事故とか病気とか)で生活ががらりと変わってしまう危機感にはつねに襲われているので、メディアによる困窮する人々の報道は他人事でないとも感じている。そんな漠然とした不安な感じが、日本の時代閉塞の現状ではないかと思います。
『ゴールデンゴールド』の根底には、そんな生々しい閉塞的な不安感があります。
舞台は、広島に近い瀬戸内海の小島、寧島(ねいじま)。
住民はどんどん島から出ていき、経済的な基盤も脆弱なので、島に活気がない。しかし、住民は日々の生活に困窮しているわけでもない。なんとなく、なんとかなるだろうと生活を続けているわけです。
主人公は少女・琉花(るか)。他人の考えや感覚がひどく敏感に察知できてしまう資質で、そのため、かえって人との接触が苦手になり、都会の広島に暮らす家族とは離れて、祖母の住む寧島の中学校に通っています。この、他人の感情に敏感で、逆に人と距離を置かざるをえないという琉花の設定がじつに巧みで、彼女のクールなまなざしを通して、本作の異常な事件を淡々と描きだすことに成功しています。
その異常な事件の発端は、琉花が海から拾ってきた「フクノカミ」にあります。ひからびたミイラか仏像のようだったそれを琉花が家に置くと、こいつは50センチくらいの、福助というか、ビリケンというか、そういう小さな人がたの生き物になって、家のなかを勝手に徘徊するようになるのです。
その一見愛嬌があるようで、じつはニヒルな不気味さを宿すフクノカミの造形(とくに目)が抜群のうまさです。
フクノカミと呼ばれるくらいで、こいつはまもなく琉花の祖母の経営する民宿を大繁盛させ、調子に乗った祖母はこの小島で初めてのコンビニを成功させ、しまいには「寧島を強化する会」という商工会議所のような組織を作り、フクノカミにむかって手を合わせるカルト的な活動をくり広げるようにもなります。その結果、第2巻では、島のヤクザのような連中が動きだし、一触即発の仁義なき戦いの予兆まで感じさせる始末です。もう目が離せません。
経済的閉塞感を一気に吹きとばすフクノカミの存在に熱い昂揚感を覚えながら、このあとどんな災厄がやって来ても不思議ではないという静かな不安と緊張感が消えないのです。そのドラマ作りのうまさに舌を巻かされます。