[本の森 仕事・人生]『稽古とプラリネ』伊藤朱里/『BUTTER』柚木麻子

レビュー

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稽古とプラリネ

『稽古とプラリネ』

著者
伊藤 朱里 [著]
出版社
筑摩書房
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784480804686
発売日
2017/03/23
価格
1,728円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

BUTTER

『BUTTER』

著者
柚木 麻子 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103355328
発売日
2017/04/21
価格
1,728円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

[本の森 仕事・人生]『稽古とプラリネ』伊藤朱里/『BUTTER』柚木麻子

[レビュアー] 吉田大助(ライター)

女性達の人生に忍び込むままならなさを掬い取る、第三一回太宰治賞受賞作を含むデビュー作品集『名前も呼べない』で注目を集めた伊藤朱里が、第二作にして初長編『稽古とプラリネ』(筑摩書房)を発表した。メインテーマは、女の友情。

 二九歳のフリーライター・南景以子は、お稽古ごとを取材するルポ連載を持っている。章ごとにお菓子、茶道、声楽……と対象が変わり、それぞれのコミュニティに属する女性達との交流が描かれていく趣向も楽しい。ピラティスのスタジオで再会したライターの先輩から喰らうマウンティングは、怒りによって読者と主人公をシンクロさせる効果もある。全編に渡って貫かれているのは、大学のサークル以来の親友・愛莉との関係性だ。こちらが一〇年付き合った彼氏と別れた頃、向こうは恋人からプロポーズされていた。後からそのことを告げる会話の節々に、裏を読んでしまう。距離を感じてしまう。過去の記憶に、スイッチが入る。友情がらみのトラブルに巻き込まれていた頃、景以子は思っていた。「友達ってなんだろう、どこまでしてあげるべきなのだろう」。大人になるということは、人間関係のさまざまな距離感に触れるということだ。だからこそ出せた「友達」の答えが、ここにある。個々のエピソードにも才が宿るが、ラストに至るうねりがいい。畳み掛けた先で解放される、オチがいい。

 女の友情と言えば、柚木麻子だ。最新長編『BUTTER』(新潮社)は、三三歳の週刊誌記者・町田里佳と、婚活詐欺で三人の男性を殺した罪に問われている梶井真奈子の関係を軸に動く。インタビューを申し込んだ里佳は、東京拘置所の面会室でアクリル板越しに出会う。料理が得意で美食家の梶井と話すうち、彼女への憧れが募り現実が歪んでいく。そのマジックは、主人公を突き抜けて読者の心も揺らす。たらこバターのパスタが食べたくて仕方なくなって、小説を読み進める手を止めてまで本当に作ってしまった……。

 この小説が、この二人の特異な関係性――「私たち、友達になれるんじゃないでしょうか」「私が欲しいのは崇拝者だけ。友達なんていらないの」――であることは間違いない。が、それはより高みへと至るジャンプボードに過ぎない。ポイントは、不妊治療のために会社を辞め専業主婦になった、旧来の親友・伶子との関係性だ。里佳がそこを見つめ直すことから得られる、あらゆる関係性だ。実在の木嶋佳苗事件を題材にしていることが明らかな物語が、終盤でまさかこんなジャンプを果たすことになるとは思いもよらなかった。現実の事件を元に小説化する、その際の職業倫理を著者は、真実の解明ではなく、事件が起きた背景にある社会問題への、解決策の提起に据えたのだ。それは「友達」をも包含する、「家族」観のアップデート。紛れもない最高傑作、味わわせてもらいました。

新潮社 小説新潮
2017年6月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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