産業医が教える、職場でありがちな3つのタイプのストレス反応とは?

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産業医が教える、職場でありがちな3つのタイプのストレス反応とは?

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

職場のストレスが消える コミュニケーションの教科書―上司のための「みる・きく・はなす」技術』(武神健之著、きずな出版)の著者は、多くの企業で1万人以上のビジネスパーソンと面談しているという現役の産業医

そうした立場から本書冒頭では、メンタルヘルス不調からうつ病になり、自殺者まで出るような職場には明らかに問題があると主張しています。そして見逃すべきでないのは、現場で働く人たちには「どこが問題なのか」が見えていないケースが多いこと。つまり求められるのは“適切なコミュニケーション”だということです。

ところで実際に産業医面談をしていると、「部下との接し方がわからない」という上司が増えていると感じるのだそうです。部下を怒れば「パワハラ」といわれ、褒めれば「セクハラ」と敬遠され、「自分はこんなにやっているのに…」と悩んでいるというのです。もちろん相談に訪れるということは、問題に気づいているということ。しかし、それを評価したうえで、著者はあることを指摘しています。

話を聞いていても、そこに部下を思う気持ちを感じることができないことが多いというのです。焦点は「自分」の側にあり、「相手」にはないということ。一方、リーダーシップのある上司や、メンタルヘルス不調者やハラスメント被害者を出さない上司たちは、コミュニケーションの焦点を「相手」に向けているのだそうです。

そして、相手を「承認」しています。

承認したうえで、怒ったり、ほめたり、接しているのです。

そこで必要なのが、本書でお伝えさせていただく「みる・きく・はなす」技術です。

技術は誰でも学べます。

そして、繰り返すことで誰でも身につけることができます。(「はじめに」より)

まず大切なのは、ストレスの質を知ること。そこでchapter 1「なぜ、ストレスがたまるのか?」のなかから「『3タイプのストレス反応』を知っておく」を見てみましょう。

ストレス原因とストレス症状の間にあるのは、個々人の“反応”なのだそうです。ストレスに反応する過程において、その“反応自身がストレスになってしまう”と、人はストレス症状を呈して、いわゆる「メンタルヘルス」状態になってしまうということ。

しかもこの反応は、個人の認識や心がけ次第で、単なる反応で終わらせることができる場合と、ストレスに感じてしまう反応(反応性ストレス)になる場合があるのだとか。そのため、ストレス原因とストレス症状との間に介在する反応性ストレスの「3つのタイプ」を知っておくことが重要だというわけです。

反応性ストレス1. がんばるストレス

反応性ストレスのひとつ目「がんばるストレス」は、優秀な人も知らず知らずのうちに溜め込みやすいタイプのストレスなのだそうです。

近年、仕事の量は増え、求められる質も高まっています。そればかりか、仕事にスピード化が求められてもいます。すると職場では「あの人ならやってくれる」と、優秀な人ほど仕事が集まりやすい状況になってしまいがち。その結果、優秀な人ほど遅くまで残業することになるというのです。

そのような状況に、「がんばる」ことで対処するのが優秀な人。上司や同僚からの信頼や感謝は、最初のうちこそモチベーションの源になるものの、次第に「がんばる」は、本人や周囲にとって“普通のこと”になってしまうというのです。

そして「みんなのためにがんばっているのに、それが認められていない」と感じた瞬間に、報われていない感覚が一気に押し寄せてくることに。張っていた気持ちが切れ、肉体的あるいは精神的な疲労の蓄積に気づき、“がんばっていた反応”が“反応性ストレス”に変わるというのです。

メンタルヘルス不調になってしまうのは、能力不足の人ばかりではないと著者。チームの花形選手のメンタルヘルス不調は、このように生じているパターンがとても多いのだそうです。(53ページより)

反応性ストレス2. 我慢のストレス

これは、「NO」といえない人に多い反応性ストレス。頼まれた仕事や苦手な人間関係にNOといえずに我慢したり、「あと少し」と考えて我慢(実際には「あと少し」ではないことが多数)、あるいは仕事がなくなることが怖いから我慢するなどがこれにあたるそうです。もちろん働く場合、多少の我慢は必要です。しかし、我慢がストレスになって健康を害してしまうのであれば、それは問題だということ。

ちなみに我慢の反応性ストレスを溜め込みやすい人に共通しているのは、「自分のストレス原因への対処手段に他人を巻き込みたくない」「他人に迷惑をかけたくない」という感情なのだとか。もちろん、ストレスにならない範囲でこれができているのであれば問題はないでしょう。しかし多くの場合、この気持ちの根底には「他人を巻き込んだり荒波を立ててしまったら、自分が嫌われてしまうのではないか。結果的にがっかりされるのではないか」という不安が潜むことが多いというのです。

一方、自己肯定感の高い人は、日ごろから相手との関係性が強固なものだと自信を持っていたり、「NO」ということで自分の評価がネガティブになることはないと考えているもの。我慢がストレスになる手前で「NO」と口に出せるわけですが、「我慢を続けていても報われない」「なにも改善しない」などと感じた瞬間に、張っていた気持ちが切れてしまうのだといいます。そして、“我慢していた反応”が“反応性ストレス”に変わるということ。

周囲から見ても調子を崩していることがわかるようになり、周囲からは産業医にかかることや休暇を勧められるものの、「大丈夫です。もう少しがんばります」と返答して早期発見・早期治療のタイミングを逃してしまったケースを、著者は多く見てきたそうです。(55ページより)

反応性ストレス3. ガス欠ストレス

これは仕事以外に「趣味がない」「楽しみがない」「熱中するものがない」ため、気分転換や「ON・OFF」のメリハリがなく、気づかないうちに調子が悪くなっていくパターン。

仕事は嫌いではないけれど淡々とこなすのみで、特に達成感を覚えたりチームワークを感じることもない状態。帰宅後は仕事こそしないものの、テレビやゲームで時間を費やすだけで、だんだんなにもする気がなくなってくる…というようなケース。目立ったきっかけがなく、周囲が気づかない間にストレスをため込み、心身とも病んでいくのだそうです。しかもメンタルヘルス不調の発症を知った周囲は、「あの程度の仕事で?」と驚くことに。

症状が悪化するまで仕事はそつなくこなすものの、日々の生活に楽しみ、喜び、熱中できることなどがないためリフレッシュできず、肉体的にも精神的にも摩耗消耗した「ガス欠」状態になるというのです。

働き続けることができていても、仕事以外で熱中できることや趣味を見つけない限り、この種の反応性ストレスはなかなか治らないもの。つまり薬を中心とした治療より、熱中できることを見つけることが大切だということ。(56ページより)

重要な言葉「ちょっといいですか?」

ところで、メンタルヘルス不調者やハラスメント被害者、ドロップアウトする人間を出さない上司に共通していることが、相手をケアする「ちょっといいですか?」という対応なのだそうです。そしてそれは、「気になる」「聞かれた」「期待したい」の3つに分けられるのだとか。

1. 気になる「ちょっといいですか?」

部下ががんばりすぎていて心配なときや、調子が悪そうだと感じるとき、メンタルヘルス不調かも…と気になるときなどに、「ちょっといいですか?」と声がけをすること。先に触れたとおり、優秀な人ほど多くの仕事を抱え、それらをこなしているうちに燃え尽きてしまいがち。だからこそ、そのようなパターンを心配する上司から部下への「ちょっといいですか?」が大切だということです。

2. 聞かれた「ちょっといいですか?」

これは、元気のない部下から、「ちょっといいですか?」と声をかけられるケースなど。部下が深刻な顔をして、あるいは診断書などを持って「ちょっといいですか?」と相談してきたら、ドキッとしても当然。しかし、そういうときも焦ることなく、堂々と対処すべきだと著者はいいます。

3. 期待したい「ちょっといいですか?」

「リーダーとして部下に声をかけるとき」「上司として若手社員に声をかけるとき」などがこれ。または、メンタルヘルス不調に理解のなさそうな相手に行動の変化を求めたいときにかける言葉だそうです。

こうした「ちょっといいですか?」に対応できると、上手なコミュニケーションにつながっていくといいます。ちなみに著者のいう「上手なコミュニケーション」とは、コミュニケーションの中身よりも「コミュニケーションのあと」に残った感情にフォーカスしたものだといいます。

たとえば調子の悪い部下が上司に「ちょっといいですか?」と声をかけてきて、それに上司が対応した結果、翌日に「あんな上司に相談するんじゃなかった」ということになったのでは意味がありません。「相談しに行ってよかった」と思ってもらえるのが、上手なコミュニケーションだということです。(60ページより)

こうした基本を踏まえたうえで、以後の章では「みる・きく・はなす」技術が具体的に解説されています。ストレスをため込むことなく快適な職場にするためにも、読んでおく価値はあると思います。

メディアジーン lifehacker
2017年6月8日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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