『イノベーターたちの日本史』 米倉誠一郎著

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イノベーターたちの日本史

『イノベーターたちの日本史』

著者
米倉 誠一郎 [著]
出版社
東洋経済新報社
ジャンル
社会科学/経済・財政・統計
ISBN
9784492371206
発売日
2017/04/28
価格
2,160円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『イノベーターたちの日本史』 米倉誠一郎著

[レビュアー] 柳川範之(経済学者・東京大学教授)

創造的な近代の日本人

 大きな環境変化に直面したとき、いかにそれに創造的に対応していくか。イノベーション(革新)の父と呼ばれるシュンペーターの言葉を引き、そのような「創造的対応」こそ重要なイノベーションだとして、近代日本の対応の歴史に焦点をあてる。

 著者はイノベーションやベンチャービジネス関連の研究で著名な経営学者。その一方、ハーバード大学で歴史学の博士号を取得した優れた歴史家でもある。その著者が、明治維新前後の日本をイノベーションという切り口で語るという、もうそのコンセプト(概念)だけでも魅力的だ。また、文中には現代ビジネスマンの心に響く言葉の数々もちりばめられている。

 江戸時代末期、高島秋帆(しゅうはん)がいかに情報感受性を発揮してきたかに始まり、大隈重信や明治政府の、変化に対する対応がどのようであったかが語られる。

 三井、三菱というかなり起源の異なった二つの財閥が、いかに企業家として活動し、創造的対応をしていったのかも取り上げられている。

 中でも詳細に論じられていて興味深いのは、小野田セメントに関する記述だ。処女作でも取り上げたとのことで、著者のこだわりと関心の高さが感じられる。明治政府が買い取った士族身分の代金を、様々な苦労と創意工夫を重ねながら、殖産興業資金に転換し、発展させていく。その詳細な記述は、現代のベンチャービジネスにも大きな含意をもつ。

 子弟や従業員を海外に留学させていて、山口の士族授産企業においても、近代化を担おうとした目線は、世界的視野に立つきわめて高いものだったという記述は印象的だ。

 著者が繰り返し述べるのは、日本人が創造的でなかったというのは大きな誤解という主張だ。歴史がそれを明確に示している。大きな変化に直面するであろう日本もそれに匹敵する創造性を示すチャンスではないか、そう訴えている。

 ◇よねくら・せいいちろう=1953年生まれ。一橋大特任教授。著書に『経営革命の構造』『創発的破壊』など。

 東洋経済新報社 2000円

読売新聞
2017年6月4日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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