『おんなのこはもりのなか』 藤田貴大著

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おんなのこはもりのなか

『おんなのこはもりのなか』

著者
藤田貴大 [著]
出版社
マガジンハウス
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784838728350
発売日
2017/04/13
価格
1,404円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『おんなのこはもりのなか』 藤田貴大著

[レビュアー] 朝井リョウ(作家)

 よく食べる人に対し動物的な魅力を感じたり、食事中の所作から性の香りを汲(く)み取ったり。食と性の繋(つな)がりを描写する作品は多い。劇作家である著者が女性への関心を綴(つづ)ったこの本にも、著者が料理について語る章がある。ただ、その描写に私は度肝を抜かれた。自分は(ほんの一部しか)女性の体内に入れないが、時間と労力を注いで作った料理は一定期間女性の体内に潜伏できる。だから料理が楽しい――食と性をこんな風に結びつけた人を、私は知らない。

 注目すべきは、直接的でない言葉選びにより文章の強度が逆に高まっている点だ。「料理を食べる女性」と「女性の体内に潜伏する料理」。同じ映像で表せるシーンなのに、二つの文章の印象は全く違う。

 私が文章というものに興味を抱いたきっかけの一つが、それをそれと描写しないほうが内容がより伝わる日本語の妙だった。美しいと書かないからこそ伝わる美しさ、性的な言葉を用いないからこそ伝わるエロス。言葉の組み立て方一つで文章の濃度が大きく変わる、そんな読者冥利に尽きる瞬間の連なりで成る粒揃(つぶぞろ)いのエッセイ集だ。

 マガジンハウス 1300円

読売新聞
2017年6月4日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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