『水中少女』
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<東北の本棚>安住の地手に入るのか
[レビュアー] 河北新報
どうにもままならない人生。そんな安住の地のない者同士が引き寄せられ、その磁力によって次々と騒動が巻き起こる。ディストピアはユートピアに変えられるのか。スリリングに展開する、著者得意の怖くて切ない幻想ライトノベルだ。本書のサブタイトルにあるように、前作「竜宮電車」からの続編となるが、単独でも楽しめる。
主人公は、千年前に水死体で打ち上げられ、たたらぬようにと神に祭られた神仁(かみ・ひとし、通称ジンジン)。神通力などさらさらない。他人から「見えるモード」「見えないモード」を操れる程度の無精な神だ。
ジンジンの神社にある日、和田拓馬なるイケメンが訪ね、「心の闇」を取り除いてくれと依頼される。ジンジンは手付けの100万円に目がくらみ引き受けてしまう。
調べると、拓馬は有閑マダムやキャバ嬢をだます詐欺師だが、実は新興宗教の跡継ぎとなるべき人物。闇は晴れぬままサイトで知り合った不幸続きのOLと、教団近くで心中事件を引き起こす。すんでのところで怪しい教団幹部に連れ去られる。
高校時代に不慮の水難事故で恋人を亡くすという拓馬の闇を知ったジンジン。教団へと救出に向かう。水中少女の謎を解くが、後継者争いのとばっちりを受けひどい目に。竜宮電車の切符を手に入れ、過去を変えに行けるのか…。
著者は1964年青森市生まれ、同市在住。2006年「闇鏡」で第18回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞しデビュー。人気作に「幻想シリーズ」など。本書は、文庫書き下ろし。「神さまと藁(わら)人形」の小編も付く。
徳間書店048(451)5960=691円。