原点(THE ORIGIN) 戦争を描く、人間を描く    安彦良和・斉藤光政 著

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原点 戦争を描く、人間を描く

『原点 戦争を描く、人間を描く』

出版社
岩波書店
ISBN
9784000611923
発売日
2017/03/10
価格
1,944円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

原点(THE ORIGIN) 戦争を描く、人間を描く    安彦良和・斉藤光政 著

[レビュアー] 中条省平(学習院大学フランス語圏文化学科教授)

◆善悪を超えるドラマ

 安彦良和は一九七九年に『機動戦士ガンダム』の作画監督として名を上げ、日本のアニメーターの名声の頂点に立った。以後、現在に至るまでガンダムの人気は衰えず、安彦はアニメファンから宮崎駿に匹敵する尊敬を受けている。本書は安彦自身のエッセーと、記者・斉藤光政が資料と取材証言をまとめた文章によって、安彦の人と作品に迫る好著である。

 最初に『ガンダム』が作られたのは、米ソの冷戦で核戦争の危機があった時代だ。『ガンダム』の主題はずばり戦争だと安彦は断言する。ただし、そこに善悪はない。ただ国家と民族のぶつかりあう巨大な歴史の渦巻きがあり、それに翻弄(ほんろう)される人間の様々なドラマがある。これは、歴史は善悪の彼岸にあるとしたヘーゲルの思想に通じる考えだ。こうした哲学を安彦はどこから作りあげたのか?

 安彦は弘前大学の全共闘運動を率い、バリケード封鎖で逮捕され、退学になった。同時に逮捕・退学させられた仲間に植垣康博と青砥幹夫がいた。植垣と青砥は連合赤軍に入り、殺人罪に問われる。安彦は生活のためアニメの世界に入った。

 戦争でも革命でも、自分を善だと考えて敵を殺すところに救いはない。この意思が安彦の思想の根底にある。安彦は『ガンダム』ののちマンガ家に転じたが、その考えに基づき、現今の日本と世界の情勢を問うマンガを描きつづけている。

(岩波書店・1944円)

<やすひこ・よしかず> 漫画家。
<さいとう・みつまさ> ジャーナリスト。

◆もう1冊 

 安彦良和著『虹色のトロツキー』(中公コミック文庫)。昭和初期の旧満州国を舞台に描いた戦争と青春の叙事詩漫画。

中日新聞 東京新聞
2017年6月11日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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