“徳之島の名物犬”車いすのラッキー 感動のノンフィクション

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車いす犬ラッキー 捨てられた命と生きる

『車いす犬ラッキー 捨てられた命と生きる』

著者
小林照幸 [著]
出版社
毎日新聞出版
ISBN
9784620324456
発売日
2017/04/27
価格
1,650円(税込)

それでも飼いつづけた理由 目頭が熱くなる感動作

[レビュアー] 立川談四楼(落語家)

 後足に車いすを付け、前足で地を勢いよく蹴り、右折左折も何のその、カーブも苦にせず軽快に走る犬を見れば誰でも我が目を疑い、それが本当となれば真底驚くだろう。

 その犬ラッキーは奄美群島の徳之島に実在する。電器店を営む島田須尚(すなお)はまったく犬に興味がなかった。やがて飲食店経営に乗り出すが、犬は毛が抜けるので衛生の観点においてもご法度であった。ところが人生は面白い。捨て犬が懐いたのを機に、この犬を飼ってしまうのだ。

 寅(とら)と名付け、徳之島では珍しい回転寿司店も『寅寿し』とし、もちろん朝晩の散歩も欠かさず、須尚はこういう暮しもあるのだとしみじみする。その寅に老いが見えた時、またも捨てられた小犬を育てることになる。ラッキーと名付けたその犬はスクスク成長し、間もなく1歳を迎える。遊びたい盛りなのだろう、公園や浜辺でリードを離すと、嬉しそうに駈け回る。好事魔多し、ラッキーが戻ってこない。

 この辺から現在に至るまでがまさに読みどころで、何度も目頭が熱くなりました。交通事故です。命までは取られなかったものの、ラッキーの下半身は動かず、それでも後足を引きずり、前足を使って須尚に駈け寄ろうとします。

 リードを離した後悔と不安が須尚を襲います。闘牛の島ですから獣医はいますが、犬猫を扱う医師がいないのです。奄美大島か沖縄本島にフェリーを使って出るしかありません。幸い沖縄で息子が自動車整備工場を営んでいて、息子夫婦は犬や猫を飼っています。ならば獣医を知っているだろうと、須尚は息子夫婦にラッキーを託します……。

 著者には『闘牛』や『ドリームボックス 殺されてゆくペットたち』という作品があり、徳之島やペット事情に精通していて、折々に殺処分等の情報が挟まれ、見事に読書のサポートをします。情況は許さないのですが、私は今、久々に犬を飼いたいという猛烈な欲求と戦っています。

新潮社 週刊新潮
2017年6月15日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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